肝臓・胆のう・膵臓
肝炎
1. 疾患の概要
肝炎とは、肝臓に炎症が生じる病態の総称で、原因によっていくつかの種類に分けられます。代表的なものには、ウイルス性肝炎、アルコール性肝炎、自己免疫性肝炎、薬剤性肝炎、代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH) などがあり、それぞれ原因や治療法が異なります。
ウイルス性肝炎は世界的に患者数が多く、日本でも B型肝炎 や C型肝炎 が医療上の重要な課題とされていました。最近では肝炎ウイルスの治療が発達し患者数が減少してきましたが、一方で代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)が問題となっています。これまで非アルコール性脂肪性肝炎と言われていたものが名称変更でMASHと呼ばれるようになりました。肝炎は急性で一過性に治癒する場合もありますが、慢性化すると肝硬変や肝がんに進展する可能性があるため、早期診断・適切な治療が重要です。
2. 発症の原因
肝炎を引き起こす主な原因には以下のものがあります。
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ウイルス感染:A型、B型、C型、D型、E型の肝炎ウイルスによるもの。特にB型・C型は慢性化しやすい。
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アルコールの過剰摂取:長期にわたる飲酒により肝細胞が傷つき、炎症が持続します。
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薬剤性:特定の薬剤(抗菌薬、解熱鎮痛薬、漢方薬など)によって肝障害が生じることがあります。
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自己免疫反応:自己の免疫が肝細胞を誤って攻撃する自己免疫性肝炎。
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脂肪肝の進行:肥満や糖尿病に伴い脂肪が肝臓に蓄積し、炎症を引き起こすMASH。
3. 日本における罹患状況と傾向
日本ではかつて 輸血や注射器の使い回し によりB型・C型肝炎ウイルスの感染が広がった経緯があり、現在でも 40代以上の成人を中心にB型・C型肝炎の保有者が多く存在します。
また、最近では脂肪肝から移行する 代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH) の増加が問題視されており、生活習慣病と深く関わっています。
4. 主な症状
肝炎は進行するまで自覚症状が乏しいことが多く、“沈黙の臓器” とも呼ばれます。主な症状は以下の通りです。
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倦怠感・疲れやすさ
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食欲不振・吐き気
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黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)
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尿の色が濃くなる(褐色尿)
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右上腹部の違和感や痛み
慢性肝炎では症状が目立たないまま進行し、肝硬変や肝がんへ移行することもあるため、定期的な健康診断や肝機能検査が重要です。
5. 診断に必要な検査
肝炎の診断には、以下のような検査を組み合わせて行います。
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血液検査(肝機能・ウイルスマーカー)
AST(GOT)、ALT(GPT)、γ-GTP、ビリルビン、HBs抗原・抗体、HCV抗体などで肝障害の程度や原因を調べます。 -
腹部超音波検査(腹部エコー)
肝臓の腫大、脂肪沈着、腫瘤性病変の有無などを確認します。
当院のエコー検査機器では脂肪沈着度や肝硬度を測定することが可能です。 -
腹部CT検査
肝腫瘍や肝硬変の評価に有用です。 -
FibroScan(肝硬度測定):肝線維化の進行度を非侵襲的に評価します。
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肝生検(必要に応じて):組織を直接調べることで診断の確定や病期の判定に用います。専門施設に紹介しておこないます。
6. 主な治療方法
肝炎の種類に応じて治療法は異なります。
ウイルス性肝炎
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B型肝炎:核酸アナログ製剤によるウイルス増殖抑制治療。
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C型肝炎:経口抗ウイルス薬(DAAs)による治療。高い治癒率が報告されています。
自己免疫性肝炎
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ステロイドや免疫抑制剤で免疫の異常を制御します。
アルコール性肝炎・MASH
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アルコールの禁酒、体重管理、糖尿病のコントロールが重要です。
薬剤性肝炎
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原因薬剤の中止が基本であり、必要に応じて肝保護剤を併用します。
当院では、血液検査、エコー、CTを用いた診断に加え、B型・C型肝炎ウイルスのスクリーニングや内科的管理、生活指導まで包括的に対応しております。
7. 予防および生活上の注意点
肝炎を予防・悪化させないために、以下のような生活習慣が推奨されます。
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定期的な肝機能検査
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飲酒量の制限または禁酒
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バランスの良い食事と体重管理
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ワクチン接種(B型肝炎予防)
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市販薬やサプリメントの乱用に注意
特に ウイルス性肝炎の早期発見と治療、生活習慣病の管理が重要です。ご自身が感染しているか不明な方は、一度血液検査でのスクリーニングをお勧めします。
当院での対応
当院では、肝炎に関する以下の医療サービスを提供しています。
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肝機能異常の精査(血液検査・エコー・CTなど)
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B型・C型肝炎のスクリーニングと紹介先のご案内
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MASHに対する生活指導
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肝臓疾患の定期フォローアップ
沈黙の臓器・肝臓は、異常があっても症状が現れにくいため、定期的な検査が大切です。
健康診断で肝機能異常を指摘された方や、長期の飲酒習慣がある方は、ぜひ当院へご相談ください。