小腸・大腸・肛門
憩室出血
1. 疾患の概要
憩室出血とは、大腸の壁に形成された袋状のくぼみ(大腸憩室)から出血を起こす状態を指します。
大腸憩室は年齢とともに高頻度でみられる良性の構造物であり、特に高齢者や便秘傾向のある方に多く認められます。日本では右側結腸(上行結腸・盲腸)に好発し、出血の原因となることがあります。
憩室そのものは症状を伴わないことが多いのですが、憩室に炎症が起きた場合は憩室炎、血管が破れて出血する場合は憩室出血と呼ばれ、いずれも適切な診断と治療が求められます。
2. 発症の原因と背景
憩室の壁には血管が走行しており、加齢や高血圧、便秘などの刺激により憩室の内圧が上昇したり、血管がもろくなったりすることで破綻し、出血に至ります。
また、次のような要因も出血のリスクとされています。
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高齢者
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動脈硬化や高血圧のある方
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抗血小板薬・抗凝固薬の服用
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慢性的な便秘
出血は突然発生し、多くの場合は痛みを伴わずに大量の血が便として出るのが特徴です。
3. 日本国内における傾向
日本における大腸憩室の有病率は年々増加しており、特に高齢者では50%以上に憩室があるとも言われています。食生活の欧米化に伴い、発症年齢も徐々に若年化しています。
また、右側結腸の憩室が多いため、日本では下血(肛門からの出血)として発見されることが多い傾向にあります。
4. 主な症状
憩室出血の特徴的な症状は以下の通りです:
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突然の血便(鮮やかな赤色や暗赤色)
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下腹部の違和感や張り感
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貧血症状(立ちくらみ、動悸、息切れ)
通常、腹痛を伴わないことが多いのが憩室出血の大きな特徴です。そのため、急な出血に驚かれて受診される方が多くいらっしゃいます。
他の消化管出血(痔核、虚血性腸炎、腫瘍性病変など)との鑑別が重要となります。
5. 診断に必要な検査
憩室出血の診断には、出血源の特定が最も重要です。
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大腸内視鏡検査
出血の原因部位を確認し、止血処置を行うための第一選択です。出血が止まっている場合でも、憩室の存在や出血跡を確認できます。 -
腹部CT検査(造影CT)
急性期で大量出血をしている場合は、CTによる出血点の同定が有効です。 -
血液検査
貧血の程度や炎症反応、出血による全身状態の把握に用います。 -
便潜血検査は急性の下血には適しません。
6. 主な治療方法
出血の重症度や全身状態によって治療方針が異なります。
軽度の場合(自然止血)
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多くは自然に止血することがあり、安静と点滴補液による経過観察で済むケースもあります。
出血が続く・再出血する場合
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内視鏡的止血術:内視鏡を用いて、出血部位を確認し、クリップや止血剤を用いて止血します。
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血管塞栓術(IVR):内視鏡で止血困難な場合は、血管造影下で出血部位を塞ぐ手技が行われます。
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外科手術:まれに、止血困難または再出血を繰り返す場合には外科的切除が検討されます。
当院では、緊急の内視鏡検査と止血処置に対応可能な体制を整えております。
7. 予防や生活上の注意点
憩室出血を予防するためには、腸内環境の改善と血管への負荷軽減が大切です。
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便秘の予防・改善
食物繊維の摂取や水分補給、適度な運動により、腸の内圧を下げることが重要です。 -
下剤の乱用を避ける
刺激性下剤の長期使用は腸管への負担を増やすため注意が必要です。 -
抗血栓薬の服用について医師と相談
抗血小板薬・抗凝固薬を服用している方は、出血リスクを医師と共有し、必要に応じて服用計画の調整が行われます。
当院での取り組み
当院では、出血の緊急対応、内視鏡による迅速な診断と止血処置、便秘改善の生活指導まで、幅広く対応しております。
下血や便の色に変化を感じた場合は、我慢せず早めにご相談ください。
再発リスクもあるため、出血経験のある方は定期的なフォローアップが重要です。