小腸・大腸・肛門
肛門周囲膿瘍
1. 疾患の概要
肛門周囲膿瘍(こうもんしゅういのうよう)とは、肛門の周囲に膿がたまる感染症です。直腸と肛門の境界部分には「肛門腺」と呼ばれる小さな分泌腺があり、ここに細菌が感染して炎症が広がると膿瘍が形成されます。放置すると膿が皮膚の表面へ向かって破れたり、慢性的な状態へ移行して「痔瘻(じろう)」へ進展することがあります。
発症の原因は、大半が肛門腺への細菌感染です。便中の細菌や皮膚常在菌が肛門腺に侵入し、化膿することで膿瘍が形成されます。糖尿病や免疫力の低下、長期の便秘や下痢なども発症のリスクを高めます。
日本では年間に数万人が発症するとされ、若年から中高年の男性に多い傾向があります。特に20代~40代の男性に多く見られますが、女性や高齢者にも発症することがあります。
2. 主な症状
肛門周囲膿瘍の典型的な症状は以下の通りです:
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肛門周囲の激しい痛み(排便時に悪化)
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腫れや赤み
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発熱や寒気
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膿の排出(進行時)
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倦怠感や悪寒などの全身症状
初期には局所の不快感や違和感のみのこともありますが、進行すると腫れや痛みが急激に増し、発熱を伴うこともあります。自然に膿が破れて膿が出ることもありますが、これで症状が完全に治癒することは少なく、内部で瘻孔を形成して痔瘻に移行することがあります。
似た症状を呈する疾患には、内痔核の炎症、裂肛(切れ痔)、皮膚のう胞、直腸がんの感染を伴う場合などがありますが、膿瘍特有の強い腫脹や発熱を伴う点が特徴です。
3. 診断に必要な検査
診断は主に視診・触診により行われ、必要に応じて以下の検査を行います:
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視診・触診:腫脹部の圧痛、発赤、膿の有無を確認。
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直腸指診:膿瘍の深さや広がりを確認。
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超音波検査(肛門周囲エコー):膿瘍の大きさや位置を把握。
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血液検査:炎症反応(白血球増加、CRP上昇)を確認。
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CT検査:膿瘍が深部にある場合や複雑な場合に実施。
症状が強く、診察によって膿瘍の存在が疑われる場合は、速やかに治療が必要です。検査は痛みを伴うこともあるため、可能な限り鎮痛処置を行いながら慎重に進めます。
4. 主な治療方法
治療の基本は膿瘍の切開と排膿です。
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切開排膿:
局所麻酔下に皮膚を切開し、たまった膿を排出します。通常は外来で実施可能であり、処置後は痛みが軽減し、発熱や全身症状も改善していきます。 -
抗菌薬の投与:
切開後の感染予防や、軽度の場合には抗生物質を併用することもあります。ただし抗菌薬単独では根治しないことが多いため、切開を併用するのが原則です。 -
再発・痔瘻への移行への対応:
膿瘍が治癒した後に瘻孔が形成された場合は、痔瘻根治手術(シートン法など)が必要になります。
当院では、的確な診断と迅速な切開排膿処置を行っており、処置後の創部ケアや再発予防のための生活指導も含めて丁寧に対応しています。再発を繰り返す方には、専門施設との連携も含めた治療方針をご提案いたします。
5. 予防や生活上の注意点
肛門周囲膿瘍は突然発症することが多い疾患ですが、以下の点に注意することで予防や再発のリスクを軽減できます:
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排便習慣の改善:便秘や下痢を予防し、肛門への刺激を減らします。
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清潔な肛門周囲の保湿・洗浄:入浴時や排便後の丁寧な洗浄が有効です。
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免疫力の維持:過労やストレス、睡眠不足を避け、バランスの良い食生活を心がけましょう。
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糖尿病などの持病管理:血糖コントロールが不良な場合、感染のリスクが高くなります。
発熱や強い痛みを伴う肛門部の症状が現れた場合、早期の受診が重要です。膿瘍の形成が疑われる場合、自己判断せず速やかに専門医の診察を受けることをお勧めします。
ご希望に応じて、当院では外来での迅速な処置・経過観察・再発予防指導まで一貫して対応いたします。お気軽にご相談ください。