腸閉塞

1. 疾患の概要

腸閉塞（イレウス）とは、腸の内容物（食べ物やガス、液体など）が正常に通過できなくなる状態を指します。腸の一部が塞がったり、機能的に動かなくなったりすることで、腹痛や膨満感、嘔吐などの症状が出現します。消化管の緊急疾患のひとつであり、早期診断と治療が非常に重要です。

腸閉塞には大きく分けて2つのタイプがあります。

• 機械的イレウス：腸が物理的に塞がれるもの（例：癒着、腫瘍、ヘルニアなど）

• 機能的イレウス（麻痺性イレウス）：腸の動きが止まっているが物理的な閉塞はないもの（例：手術後、感染、薬剤性など）

日本では高齢者の発症が多く、手術歴のある方や腸の疾患を持つ方に比較的よく見られます。

2. 主な症状

腸閉塞の症状は、腸のどの部位がどの程度閉塞しているかによって異なりますが、一般的には以下のような症状が現れます：

• 腹痛（間欠的または持続的な痛み）

• 腹部膨満感

• 吐き気・嘔吐

• 排便・排ガスの停止

• 腹鳴の減弱または消失

• 脱水症状（口渇、尿量減少など）

進行すると腸に血流障害が生じ、腸壊死や穿孔（穴があく）といった重篤な合併症を引き起こすことがあります。その場合は高熱、強い腹痛、意識障害を伴うこともあります。

一見、胃腸炎や便秘と区別しづらいこともありますが、排便・排ガスが完全に止まる点や腹部の異常な膨満感は見逃してはいけないサインです。

3. 診断に必要な検査

腸閉塞の診断は、症状の経過と身体診察に加え、以下の検査を組み合わせて行います。

• 腹部X線検査：ガスや液体が腸に溜まり「ニボー像」と呼ばれる特徴的な像を確認できます。

• 腹部CT検査：閉塞の部位、原因（癒着、腫瘍、ヘルニアなど）、腸管の状態（壊死の有無など）をより詳細に評価できます。

• 血液検査：脱水の程度、炎症反応、電解質異常、腸管壊死の可能性などを評価します。

• 超音波検査（状況に応じて）：腸管の動きや拡張の程度を確認します。

当院では、必要に応じて連携医療機関と迅速に連絡を取り、CT検査や緊急手術への橋渡しも行っております。

4. 主な治療方法

腸閉塞の治療は、閉塞の原因や重症度によって異なります。

（1）保存的治療（手術を伴わない治療）

比較的軽症で腸の血流障害がない場合には、以下のような治療を行います。

• 絶食（腸を休ませる）

• 輸液による水分・電解質補正

• 胃管・腸管チューブによる減圧（内容物の吸引）

• 腸管の動きを助ける薬剤の投与

（2）外科的治療

以下の場合には手術が必要になります：

• 保存的治療で改善がみられない場合

• 腸の壊死や穿孔が疑われる、またそうなる可能性がある場合

• 腫瘍や腸捻転、ヘルニアなどの閉塞原因を根本的に除去する必要がある場合

術後は再発予防のための生活指導や、癒着対策なども重要です。

5. 予防や生活上の注意点

腸閉塞の予防には、原因となる因子の把握と生活習慣の見直しが有効です。

• 規則正しい食生活を心がける（よく噛んで食べる、消化の良い食事を）

• 便秘の予防や早期対処

• 手術歴がある方は、急激な運動や食べ過ぎに注意

• 水分をこまめに摂取する

• 定期的な腹部症状のチェック

また、腫瘍や慢性炎症による腸管狭窄がある方は、内視鏡検査による定期的な評価や早期治療が再発予防につながります。

当院では、腹痛や便通異常の精密検査（内視鏡・画像診断）から、保存的治療、必要時の高次医療機関との連携まで一貫した診療体制を整えております。過去に腸閉塞の既往がある方や、腹部症状に不安をお持ちの方は、ぜひお早めにご相談ください。