小腸・大腸・肛門

痔瘻

痔瘻(じろう)について

1. 疾患の概要

痔瘻とは、肛門周囲に膿がたまり(肛門周囲膿瘍)、その膿が皮膚表面に排出された後に、肛門の内側と皮膚表面とをつなぐ「トンネル(瘻孔)」が残ってしまう病気です。このトンネル状の通路は自然には閉じず、慢性的な炎症を繰り返すことが多く、手術による治療が基本となります。

発症の原因としては、肛門内部のくぼみにある腺(肛門腺)が細菌感染を起こすことが主な要因です。これにより肛門周囲に膿がたまり、自然に破れて外に膿が排出されると、瘻孔が形成されます。生活習慣や食事が直接的な原因となることは少なく、むしろ体質的な傾向や感染のタイミングによるものと考えられています。

クローン病や潰瘍性大腸炎など、肛門や直腸に炎症をきたす炎症性腸疾患をお持ちの方に発生することが比較的多くなっています。
日本では比較的まれな疾患ですが、30代〜50代の男性に多く見られ、女性に比べると3~4倍の頻度で発症します。

 

2. 主な症状

痔瘻の症状は以下のようなものが挙げられます:

  • 肛門周囲の持続的な痛みや違和感

  • 膿や分泌物が皮膚から排出される

  • 排便時の痛みや不快感

  • 肛門周囲の腫れや発赤

  • 再発性の肛門周囲膿瘍

瘻孔の形状や数は個人差があり、1本の単純なものから、複雑に分岐した多発性の痔瘻まで様々です。慢性化すると、瘻孔からの分泌物が持続的に出続け、下着を汚してしまうこともあります。

痔核(いぼ痔)や肛門裂傷(切れ痔)などと混同されることがありますが、痔瘻は感染症に由来する疾患であり、自然治癒することは極めて稀です。

 

3. 診断に必要な検査

痔瘻の診断には以下のような検査を行います:

  • 視診・触診:肛門周囲に開口部や硬結(しこり)を確認します。

  • 肛門鏡検査:肛門内に瘻孔の入り口がないか確認します。

  • 超音波検査(経肛門エコー):瘻孔の走行や深さを評価します。

  • CT検査:膿瘍(うみのたまり)を形成していないか確認します。
  • MRI検査:複雑な痔瘻や再発例では、瘻孔の全体像を把握するために用います。

診断は、視診・触診での確認が基本ですが、瘻孔が深部にまで及ぶ場合や手術の計画を立てる場合には、画像検査が有用です。

 

4. 主な治療方法

痔瘻は自然治癒がほとんど期待できず、根治には外科的治療が必要です。

  • 手術療法

    • シートン法:ゴムなどの糸を用いて瘻孔を徐々に開いていく方法。括約筋への損傷を抑えつつ治癒を目指します。

    • 開放術(瘻孔切開術):瘻孔を切開し、内部を開放して自然に治癒させる方法。単純な痔瘻に適しています。

    • 括約筋温存手術:括約筋を温存しつつ瘻孔を除去する術式もあり、術後の便失禁リスクを低下させます。

  • 内科的治療
    根本的な治療にはなりませんが、急性炎症や膿瘍形成時には抗生物質の使用や、切開排膿が行われることがあります。

当院では、専門的な診断に基づき、個々の病態に応じた最適な治療法をご提案しています。必要に応じて連携医療機関への紹介も行っております。

 

5. 予防や生活上の注意点

痔瘻の予防は難しい面がありますが、以下の点に注意することが重要です:

  • 肛門部を清潔に保つ:排便後の洗浄やケアを丁寧に行いましょう。

  • 便秘・下痢の予防:いずれも肛門への負担を増やすため、バランスの取れた食事と十分な水分摂取を心がけましょう。

  • 肛門に異変を感じたら早めに受診:膿の排出や痛みがある場合は、早期の診察をお勧めします。

再発を防ぐには、手術後の経過観察と生活習慣の見直しが欠かせません。治療後もしばらくは定期的なフォローアップが必要です。


ご不明な点がございましたら、当院までお気軽にご相談ください。痔瘻は放置すると複雑化し、治療が困難になることもあります。早期発見・早期治療が鍵となりますので、心配な症状がある場合はお早めにご来院ください。