小腸・大腸・肛門
憩室炎
1. 疾患の概要
憩室炎(けいしつえん)とは、大腸の壁にできた袋状の膨らみである「憩室(けいしつ)」に炎症が起こる疾患です。憩室は加齢や生活習慣により腸管の圧力が高まった結果、腸壁の一部が外側に飛び出して形成されるもので、特にS状結腸や下行結腸に多く認められます。
憩室そのものは無症状のことが多いのですが、便が憩室内に詰まったり、細菌が繁殖したりすることで炎症を起こすと、腹痛や発熱などの症状が出現し「憩室炎」となります。放置すると膿瘍形成、穿孔(腸に穴が開く)、腹膜炎などの合併症を引き起こすため、適切な診断と治療が重要です。
発症の原因
憩室の形成には以下のような要因が関与しています:
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加齢(腸壁が脆弱化するため)
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便秘や排便時の強いいきみ
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食物繊維の不足した食生活
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肥満、運動不足、喫煙
憩室ができた後、便や異物が憩室内に滞留し、腸内細菌が繁殖することにより炎症を引き起こすと考えられています。これが憩室炎です。まれに、免疫低下やNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)の使用も誘因となることがあります。
日本国内における罹患率と傾向
高齢化が進む日本では、大腸内視鏡検査で憩室が見つかる方は全体の30〜50%にのぼると言われており、年齢とともに有病率は上昇します。右側結腸に憩室が多いのが日本人の特徴で、欧米では左側結腸に多い傾向があります。
憩室炎として症状が出現するのは、憩室保有者の一部であり、発症年齢は50歳以上に多く、男女差はほとんどありません。
2. 主な症状
憩室炎による症状は以下のようなものです:
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左下腹部痛(日本人では右下腹部の場合も)
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発熱(38℃前後)
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下痢または便秘
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嘔気や食欲不振
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腹部の圧痛や不快感
炎症の程度により症状の重さは異なり、軽症であれば腹痛や微熱程度で済みますが、重症化すると穿孔を起こし、急激な腹痛・腹膜刺激症状(筋性防御・反跳痛)を伴うこともあります。
他の疾患との鑑別
右下腹部痛は急性虫垂炎、左下腹部痛は虚血性腸炎、婦人科疾患などとも鑑別が必要です。特に高齢者では症状が典型的でないこともあるため、慎重な診断が求められます。
3. 診断に必要な検査
憩室炎の診断には以下の検査が用いられます:
● 血液検査
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白血球の増加やCRP(炎症反応)の上昇を確認
● 腹部CT検査
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炎症のある憩室や腸管周囲の脂肪濃度上昇、膿瘍や穿孔の有無を評価
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憩室炎の診断にはCTが最も有用
● 腹部超音波(エコー)
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炎症所見が見られることもありますが、CTに比べて感度が劣ります
● 大腸内視鏡検査
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急性期には避けることが推奨されるが、症状が落ち着いた後の精査として適応
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がんとの鑑別のためにも重要
初診時は、腹痛の部位と性状の確認、触診、発熱の有無などの総合評価が大切です。
4. 主な治療方法
憩室炎の治療法は、炎症の重症度に応じて異なります。
● 軽症の場合(外来管理可能)
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絶食または消化の良い食事への切り替え
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抗生物質の内服または点滴投与
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経過観察(通常数日〜1週間で改善)
● 中等症〜重症(入院加療が必要)
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点滴による補液と抗菌薬投与
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発熱・腹痛のモニタリング
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膿瘍形成があればドレナージや手術が必要になることも
● 穿孔・腹膜炎を伴う重症例
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緊急手術(穿孔部位の切除と洗浄)
● 再発性・慢性憩室炎
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反復する場合は**選択的に外科手術(結腸切除)**が行われることもあります
● 当院で提供可能な治療
泉胃腸科外科医院では、腹部の疼痛や発熱に対する初期診療、血液検査・超音波検査による評価、内服薬の処方や生活指導を行っております。必要に応じて高次医療機関との連携によるCT検査や手術加療も可能です。
5. 予防や生活上の注意点
憩室炎は生活習慣と深く関わっており、以下のような予防が効果的です。
● 食生活の改善
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食物繊維を豊富に含む食品(野菜、果物、穀類)を意識して摂取
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便秘の予防:排便時のいきみを避け、スムーズな排便を心がける
● 十分な水分摂取
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毎日1.5~2リットルの水分を目安に摂る
● 適度な運動
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腸管の動きを促進し、便通を整える効果があります
● 禁煙・節酒
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喫煙は腸の炎症を悪化させるリスク因子の一つです
● 再発予防
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再発率は比較的高く、予防的な食事療法と定期的な通院が重要です
おわりに
憩室炎は加齢とともに増加する疾患ですが、生活習慣を見直すことで予防や再発抑制が可能です。 急な腹痛や発熱がある場合、自己判断せず早めの医療機関受診をおすすめします。
泉胃腸科外科医院では、腹痛の初期対応から、検査、薬物療法、生活指導に至るまで、地域の皆さまの健康をトータルにサポートいたします。些細な体調変化でもお気軽にご相談ください。