小腸・大腸・肛門

急性虫垂炎(盲腸[もうちょう]:俗称)

1. 疾患の概要

急性虫垂炎(きゅうせいちゅうすいえん)とは、大腸の一部である「虫垂(ちゅうすい)」に急性の炎症が生じる病気です。一般的には「盲腸(もうちょう)」と呼ばれることが多く、消化器外科領域で最も頻度の高い急性腹症の一つです。

虫垂は、盲腸の先に付属する袋状の臓器で、役割については完全には解明されていないものの、免疫に関与している可能性が指摘されています。何らかの原因でこの虫垂が閉塞されると、内部に膿や細菌がたまり、炎症や感染が進行していきます。放置すれば**穿孔(破裂)**や腹膜炎といった重篤な合併症を引き起こす可能性があり、早期診断・早期治療が重要です。


発症の原因

虫垂炎は、虫垂の内部が閉塞されることをきっかけに炎症が始まると考えられています。閉塞の原因はさまざまで、以下のようなものがあります:

  • 虫垂内の糞石(ふんせき)や異物

  • リンパ組織の腫大(特に小児や若年者)

  • 消化管ウイルスなどの感染

  • 胃腸炎後の免疫反応

  • 外傷や腸管のねじれ など

はっきりした生活習慣病とは異なりますが、便秘傾向や食物繊維の不足がリスク因子のひとつとされることもあります。


日本国内における罹患率と傾向

日本では、年間で約10万人前後が急性虫垂炎と診断されているとされています。全年齢で発症し得ますが、特に10代後半〜30代の若年成人に多く、男性の方がやや多い傾向があります。高齢者では症状がはっきりしないこともあり、診断が遅れやすく注意が必要です。


2. 主な症状

急性虫垂炎の症状は進行段階によって異なりますが、以下のような経過をたどることが一般的です。

  • 初期症状:みぞおちやへその周囲の鈍い痛み、食欲不振、吐き気

  • 数時間後:痛みが**右下腹部(マックバーニー点)**に移動し、次第に強くなる

  • 発熱(37.5〜38℃程度)、白血球の増加

  • 圧痛、筋性防御、反跳痛(押して離した時の痛み)

病状が進行すると、虫垂が壊死・穿孔し、膿瘍形成や腹膜炎を起こすことがあります。このような場合、痛みが急激に広がり、腹部が板のように硬くなったり、全身状態が悪化することがあります。

鑑別を要する疾患

症状は他の疾患(卵巣嚢腫の捻転、尿路結石、胃腸炎、クローン病、子宮外妊娠など)とも類似しているため、正確な診断が重要です。


3. 診断に必要な検査

急性虫垂炎は、臨床所見と画像診断を組み合わせて診断します。

● 血液検査

  • 白血球数やCRP(炎症反応)の上昇を確認

● 腹部超音波検査(エコー)

  • 虫垂の腫大、周囲の炎症反応、膿瘍の有無を確認

  • 特に小児や妊婦には有用

● 腹部CT検査

  • 虫垂の腫れ、糞石、膿瘍の存在をより詳細に評価可能

  • 成人ではCTが診断の第一選択

● 尿検査

  • 尿路感染症や尿管結石との鑑別のために実施

初診時には、問診・視診・触診を含む総合的な評価が欠かせません。特に症状が軽い初期段階では、経過観察が診断の一助となる場合もあります


4. 主な治療方法

治療法は、虫垂の状態や病期、年齢、合併症の有無によって異なります。

● 手術療法(虫垂切除術)

  • 最も確立された治療法で、腹腔鏡下手術または開腹手術にて虫垂を摘出

  • 現在では腹腔鏡手術が主流であり、術後の痛みや回復も早い

  • 穿孔を伴う場合は、洗浄・ドレナージ処置も併用

● 保存的治療(抗菌薬投与)

  • 軽症例や手術困難な状態、または穿孔リスクが低いと判断される症例に対し、抗生物質で炎症を抑える方法

  • 一定の成功率があるものの、再発率が高いため、将来的に手術を勧められることもあります

● 当院で提供可能な治療

泉胃腸科外科医院では、腹部エコーや血液検査による迅速な初期評価に加え、必要に応じて高次医療機関との連携による速やかな外科紹介体制を整えております。軽症例には初期対応と経過観察、抗菌薬投与も可能です。


5. 予防や生活上の注意点

急性虫垂炎の発症を完全に予防することは難しいものの、以下のような点がリスク低減に寄与すると考えられます。

● 日常生活での注意

  • 食物繊維をしっかり摂取し、便秘を防ぐ

  • 水分を十分に摂取する

  • 胃腸の調子を崩しやすい時期(夏場・冬場など)は暴飲暴食を避ける

  • 腹痛が長引く場合は自己判断せず、早めに受診

● 再発・合併症への対応

  • 抗菌薬で一時的に改善しても、再発する可能性があるため定期的な経過観察が重要

  • 穿孔例では腹膜炎や腸閉塞などを起こす危険があるため、急激な腹痛や発熱があれば早期受診


おわりに

急性虫垂炎は、発症頻度が高く、進行の早い疾患です。 早期に診断・治療を行えば、ほとんどの方が完全に回復します。一方で、放置すれば重篤な合併症に至ることもあるため、「ただの腹痛」と軽視せず、早めの医療機関受診が肝要です

泉胃腸科外科医院では、腹部の痛みを専門的に診断・評価し、適切な治療へとつなげる初期対応を重視しております。急な腹痛や胃腸の不調でお困りの際は、ぜひ当院へご相談ください。