小腸・大腸・肛門
炎症性腸疾患(IBD)
1. 疾患の概要
炎症性腸疾患(IBD:Inflammatory Bowel Disease)とは、主に消化管、特に小腸や大腸に慢性的な炎症が生じる疾患群の総称で、潰瘍性大腸炎(UC)とクローン病(CD)の2つの病型に大別されます。これらはともに自己免疫反応が関与すると考えられ、繰り返し再燃と寛解を繰り返すという特徴があります。
潰瘍性大腸炎は大腸の粘膜層に限局した連続性の炎症を特徴とし、直腸から連続して上行する病変が多くみられます。一方、クローン病は消化管のあらゆる部位(口腔から肛門まで)に不連続な病変が生じ、腸の全層にわたる深い潰瘍や瘻孔(ろうこう)形成が見られることが特徴です。
発症の原因
炎症性腸疾患の原因は完全には解明されていませんが、以下のような要因が複雑に関与していると考えられています。
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遺伝的素因(家族歴)
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腸内細菌叢(腸内フローラ)の異常
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免疫系の異常(自己免疫反応)
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食生活(高脂肪・低食物繊維など)
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喫煙(特にクローン病との関連が強い)
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精神的・身体的ストレス
日本国内における罹患率と傾向
近年、IBDは日本においても増加傾向にあり、潰瘍性大腸炎は約22万人、クローン病は約7万人の患者数が報告されています(厚生労働省調べ)。男女比は潰瘍性大腸炎でほぼ同等、クローン病では男性にやや多く見られます。20〜30代の若年成人に好発する一方、近年は高齢発症例も増加傾向にあります。
2. 主な症状
潰瘍性大腸炎の症状:
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血便(鮮血を伴うことが多い)
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粘液便
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下痢(1日数回〜十数回)
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腹痛(特に左下腹部)
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発熱、倦怠感、体重減少
クローン病の症状:
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下痢(血便を伴わないことも多い)
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腹痛(右下腹部に多い)
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発熱、体重減少、食欲低下
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肛門病変(裂肛・痔瘻・膿瘍など)
炎症が持続すると、**貧血や低栄養状態、成長障害(若年例)**も起こります。また、関節炎、皮膚炎、眼炎などの腸管外合併症も報告されており、全身性疾患としての管理が求められます。
3. 診断に必要な検査
IBDの診断には以下のような検査を組み合わせて行います。
● 血液検査
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炎症マーカー(CRP、白血球数など)
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貧血、低アルブミン、電解質異常の評価
● 便検査
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糞便中のカルプロテクチン(炎症の有無を反映)
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細菌性腸炎などの除外診断
● 内視鏡検査(大腸カメラ、小腸内視鏡)
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病変の部位や形態を直接観察
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組織生検による病理診断
● 画像検査(CT、MRI、超音波、カプセル内視鏡)
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クローン病の小腸病変や合併症(狭窄、瘻孔、膿瘍)の評価に有用
診断は、症状・内視鏡所見・画像診断・病理組織所見を総合的に判断して確定されます。
4. 主な治療方法
IBDの治療は、炎症を抑えて寛解(症状がない状態)を導入し、維持することを目的とします。
● 薬物療法
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5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤:潰瘍性大腸炎の第一選択薬
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副腎皮質ステロイド:中等症以上の再燃時に使用(短期限定)
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免疫調整薬(アザチオプリンなど):寛解維持に有効
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生物学的製剤(抗TNFα抗体、抗IL-12/23抗体など):難治例や重症例で使用
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JAK阻害薬:中等症〜重症潰瘍性大腸炎に対して有効性が示されています
● 外科手術
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治療抵抗性、重篤な合併症(穿孔、大出血、狭窄)などでは**手術(腸切除、回腸嚢肛門吻合術など)**が検討されます。
● 栄養療法
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特にクローン病では**経腸栄養(エレンタール)**が有効な治療手段となります。
● 当院での対応
泉胃腸科外科医院では、初期症状の評価から内視鏡検査、血液検査、便検査の実施、薬物治療や生活指導まで一貫した対応が可能です。必要時には大学病院・専門施設との連携体制も整えております。
5. 予防や生活上の注意点
IBDは原因が不明な部分も多く、完全な予防は困難ですが、再燃の予防や症状の安定化のためには生活習慣の改善が不可欠です。
● 食事
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症状があるときは低脂肪・低残渣食が基本
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寛解期には栄養バランスの取れた食事を心がける
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食物繊維や乳製品などが症状を悪化させる場合は調整を
● 禁煙
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特にクローン病では喫煙が病勢悪化や手術リスク上昇と関連します
● ストレス管理
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精神的ストレスが症状に影響することがあり、リラクゼーションや十分な睡眠が推奨されます
● 定期通院と自己管理
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定期的な診察・検査により再燃の兆候を早期に把握し、迅速に対応することが大切です
おわりに
炎症性腸疾患は長期にわたる治療が必要となる慢性疾患ですが、医療の進歩により多くの患者さんが症状をコントロールし、社会生活を維持できるようになっています。当院では患者さん一人ひとりに寄り添い、安心して治療を継続いただけるよう努めております。症状にご不安がある方は、どうぞお気軽にご相談ください。