小腸・大腸・肛門

カンピロバクター腸炎

1. 疾患の概要

カンピロバクター腸炎とは、カンピロバクター属の細菌によって引き起こされる感染性腸炎の一種です。特に「カンピロバクター・ジェジュニ」「カンピロバクター・コリ」が代表的な原因菌であり、少量の菌でも感染を引き起こすことが知られています。日本における細菌性食中毒の原因として最も多く報告されている病原体の一つです。

発症の主な原因は、加熱不十分な鶏肉や汚染された水、牛乳などの摂取によるもので、家庭内調理や飲食店での衛生管理が不十分な場合に感染リスクが高まります。感染から発症までの潜伏期間は通常2〜5日程度です。

日本では、若年層から中高年まで幅広い年齢層で発症が見られますが、特に10代後半から30代前半の若年層に多い傾向があります。性別による大きな偏りはありません。

 

2. 主な症状

カンピロバクター腸炎の代表的な症状には、以下のようなものがあります:

  • 発熱(38℃前後の発熱が多い)

  • 下痢(水様性または粘血便)

  • 腹痛(とくに右下腹部の差し込むような痛み)

  • 吐き気、嘔吐

  • 倦怠感

症状の進行には個人差があり、軽症で自然に回復する方もいれば、激しい腹痛や脱水をきたす方もいます。まれに、発症後1〜3週間以内に「ギラン・バレー症候群」と呼ばれる神経疾患を合併することがあるため、注意が必要です。

ウイルス性胃腸炎や他の細菌性腸炎(例:サルモネラ腸炎、腸管出血性大腸菌感染症など)と症状が似ていることもあり、正確な診断が重要です。

 

3. 診断に必要な検査

カンピロバクター腸炎の診断には、以下の検査が行われます:

  • 便培養検査:最も確実な診断法であり、便から原因菌を培養して確認します。

  • 血液検査:白血球数の増加や炎症マーカー(CRP)を確認することで、感染の有無や程度を評価します。

  • 腹部画像検査(超音波やCT):重症例や合併症が疑われる場合に行われ、腸管の炎症や肥厚などを確認します。

初診では、問診と身体診察により細菌性腸炎の可能性を評価し、便培養や必要に応じた血液・画像検査によって最終的な診断に至ります。

 

4. 主な治療方法

多くの場合、カンピロバクター腸炎は自然軽快する疾患であり、軽症例では対症療法(脱水予防、安静、整腸薬の投与)が中心となります。

治療の基本方針:

  • 水分補給と電解質バランスの維持:下痢や嘔吐により脱水をきたしやすいため、経口補水液や点滴による補液が重要です。

  • 整腸剤の使用:腸内環境を整える目的で整腸剤を処方する場合があります。

  • 抗生物質:原則として軽症例には使用せず、発熱が持続する場合や重症例、免疫力が低下している患者、乳幼児・高齢者にはマクロライド系(エリスロマイシンなど)またはニューキノロン系抗菌薬が使用されることがあります。

当院では、症状と検査結果を総合的に判断し、必要に応じて抗生剤治療を行っております。また、合併症や長期化する症例には専門医療機関と連携して対応いたします。

 

5. 予防や生活上の注意点

カンピロバクター腸炎の予防には、日常生活での衛生対策が極めて重要です。

  • 鶏肉の中心部まで十分に加熱(75℃以上で1分以上)する。

  • 生肉と加熱後の食品を別の調理器具で扱う(まな板や包丁の使い分け)。

  • 調理後やトイレ後の手洗いを徹底する。

  • 飲料水は衛生的なものを使用し、特に海外渡航時には水や氷にも注意を払う。

また、感染後は他者への二次感染を防ぐため、症状が完全に落ち着くまでは調理業務や乳幼児・高齢者への接触を避けるなどの配慮が求められます。


当院では、便培養検査や血液検査による早期診断に加え、脱水予防を中心とした対症療法を基本とし、必要に応じて抗菌薬の処方を行っています。下痢や腹痛などの症状がある方は、自己判断せず早めにご相談ください。適切な診断と治療により、早期回復と再発予防が可能です。