小腸・大腸・肛門

ノロウイルス腸炎

1. 疾患の概要

ノロウイルス腸炎は、ノロウイルスという非常に感染力の強いウイルスによって引き起こされる急性胃腸炎の一種です。主に冬季に流行しますが、年間を通じて散発的に発生します。ノロウイルスは少量のウイルスでも感染が成立するため、家庭内や施設、学校、飲食店などで集団感染が起きやすいのが特徴です。

感染経路は、汚染された食品(特にカキなどの二枚貝)の摂取や、感染者の嘔吐物・便からの飛沫・接触によるものが主です。アルコール消毒に対して耐性があり、感染予防には石けんと流水による丁寧な手洗いが重要です。

日本においても毎年多くの感染例が報告されており、乳幼児や高齢者では重症化のリスクが高く、注意が必要です。

 

2. 主な症状

ノロウイルス腸炎の典型的な症状は、以下のとおりです。

  • 突然の嘔吐

  • 水様性の下痢

  • 腹痛

  • 微熱や悪寒

  • 全身の倦怠感

症状は感染から24〜48時間以内に発症し、通常1〜3日程度で自然に軽快します。血便や高熱は一般的ではなく、これらの症状がみられる場合は他の病気(細菌性腸炎など)の可能性を考慮する必要があります。

脱水症状が進行すると、口渇、尿量減少、意識障害などが起こることもあり、特に小児や高齢者では注意が必要です。

 

3. 診断に必要な検査

ノロウイルス腸炎の診断は、症状や流行状況から臨床的に行われることが一般的ですが、必要に応じて検査が行われます。

  • 便中ノロウイルス抗原検査
    抗原検査キットによって便中のノロウイルスを検出します。結果は通常当日判明します。
    院内の抗原検査キットが欠品中の場合は外注検査に出すため結果まで1~2日かかります。

     

    ※この検査は、保険適用となる条件があり、「3歳以下」「65歳以上」「悪性疾患などの基礎疾患を有する方」が対象です。それ以外の方については自費検査となります。

  • 血液検査
    重症度の評価や脱水の程度、他疾患との鑑別のために行うことがあります。

通常は症状と発症状況から診断がつくことが多いため、重症例や集団感染の把握が必要な場合を除いて、検査を行わずに治療を開始することもあります。

4. 主な治療方法

ノロウイルスに対する特効薬やワクチンは存在せず、治療は対症療法が基本です

  • 水分補給
    嘔吐や下痢によって失われた水分と電解質を補うことが最も重要です。経口補水液(OS-1など)の活用が推奨されます。

  • 食事
    症状が落ち着くまでは、無理に食事をとる必要はありません。回復期にはおかゆやスープなど、消化のよいものから再開します。

  • 整腸剤・解熱鎮痛剤
    胃腸の働きを整える薬や、発熱に対する薬が処方されることがあります。

  • 抗生物質は無効
    ノロウイルスはウイルス性の疾患であるため、抗菌薬(抗生物質)は効果がありません。

当院では、患者様の年齢や重症度、基礎疾患の有無をふまえた適切な脱水対策や生活指導を提供しております。

5. 予防や生活上の注意点

ノロウイルス腸炎を予防するためには、以下の生活習慣が有効です。

  • 手洗いの徹底
    特に調理や食事前、トイレ後の石けんによる手洗いを習慣づけましょう。

  • 加熱調理
    カキなどの二枚貝は中心部までしっかり加熱(85℃以上で1分以上)することが推奨されます。

  • 嘔吐物・便の処理
    感染者の嘔吐物や便は速やかに処理し、次亜塩素酸ナトリウム(家庭用塩素系漂白剤など)で消毒します。マスクと手袋の着用が望ましいです。

  • 感染後の出勤・登校
    完全に症状が治まってから、少なくとも2日以上経過してからの社会復帰が望まれます。

特に高齢者施設や医療機関、食品関係の職場では、集団感染を防ぐための厳格な衛生管理が求められます。


当院では、ノロウイルス感染が疑われる患者様に対して、必要に応じた検査の実施、脱水管理、生活指導を行っております。気になる症状がある方は、早めの受診をおすすめします。