小腸・大腸・肛門
サルモネラ腸炎・サルモネラ感染症
1. 疾患の概要
サルモネラ腸炎とは、サルモネラ属菌による感染によって引き起こされる急性腸炎の一種です。サルモネラ菌は人畜共通感染症の原因菌で、鶏卵、生肉、未加熱の加工食品、ペット(特に爬虫類)などから経口的に感染します。感染後、腸管で菌が増殖し、炎症反応を引き起こすことで発症します。
サルモネラ菌は多数の血清型が存在しますが、人に腸炎を引き起こすのは主にサルモネラ・エンテリティディスやサルモネラ・タイフィムリウムといった非チフス性サルモネラです。
日本国内では、毎年数千件以上の食中毒事例が報告されており、その中でもサルモネラ属菌は代表的な細菌性食中毒の原因菌とされています。特に夏場に多発しますが、季節に関係なく発症する可能性があります。乳幼児や高齢者、免疫力の低下した方では重症化しやすいため、注意が必要です。
2. 主な症状
感染から数時間〜3日程度の潜伏期間を経て、以下のような症状が現れます:
-
下痢(水様性〜粘血便)
-
発熱(38〜40℃の高熱が出ることも)
-
腹痛(特に下腹部の疝痛様)
-
吐き気、嘔吐
-
全身倦怠感
これらの症状は通常数日〜1週間程度で自然軽快することが多いですが、高齢者や小児では脱水や菌血症に進展する危険性があり、適切な治療が求められます。
腸炎型の他、まれに菌が血流に乗って骨髄炎、敗血症、関節炎などを引き起こすこともあります。腸炎症状がなく、発熱のみで経過する場合もあり、症状が非典型的なこともあります。
他の細菌性腸炎(カンピロバクター、腸管出血性大腸菌など)との鑑別が必要です。
3. 診断に必要な検査
診断の確定には以下の検査を行います:
-
便培養検査:サルモネラ属菌の検出が確定診断に有用です。
-
血液検査:白血球増加、CRPの上昇、脱水の有無などを評価します。
-
腹部画像検査(超音波、CT):重症例では腸管の炎症の程度や合併症の評価に用います。
また、食品関係の職場で感染源としての検出があった場合には、症状の有無に関わらず便培養によるサーベイランスが推奨され、感染拡大防止のための医療的介入が必要とされます。
4. 主な治療方法
サルモネラ腸炎の治療は、原則として対症療法が基本です。
-
水分・電解質補給:経口補水液や点滴による補液が中心です。
-
整腸剤や解熱剤の投与:必要に応じて使用します。
-
抗菌薬の使用:
-
原則として軽症例や免疫正常な成人には使用せず、自然軽快を待ちます。
-
ただし、乳幼児、高齢者、基礎疾患を有する方、または菌血症などの重症例では抗菌薬(ニューキノロン系、セフェム系など)の投与が推奨されます。
-
食品関係の職場に従事しており、便からサルモネラが検出された無症状者に対しても、感染拡大防止の観点から除菌目的で抗菌薬投与を行うことがあります。
-
この方針は厚生労働省のガイドラインや自治体の食品衛生管理指針に基づいており、特に保健所との連携の下で適切な除菌・就業制限が行われます。
当院では、サルモネラ菌の迅速診断、適切な補液治療、必要に応じた抗菌薬の処方を行っており、また食品従事者のための除菌治療にも対応しております。
5. 予防や生活上の注意点
サルモネラ腸炎の予防には、日常生活での衛生管理が非常に重要です。
-
加熱調理の徹底:鶏肉、卵などは中心部までしっかり加熱(75℃で1分以上)する。
-
生卵の取り扱いに注意:冷蔵保存を徹底し、期限切れや殻にひびが入った卵の使用は避ける。
-
手洗いの励行:調理や食事の前、トイレの後には石けんで丁寧に手洗いを行う。
-
調理器具の分別使用:生肉や卵を扱った器具・まな板はすぐに洗浄・消毒。
-
ペットとの接触後の手洗い:特に爬虫類や鳥類を飼育している家庭では注意が必要です。
また、発症後は周囲への感染を防ぐため、完全に回復するまでの間は食品を扱う仕事を控えることが求められます。
当院では、食中毒や感染性腸炎に関する検査・治療・指導を地域に根ざして行っております。症状がある方はもちろん、食品関連職に従事していて陽性結果が出た場合なども、迅速に対応いたしますので、安心してご相談ください。