口腔内・のど・食道
食道静脈瘤
1. 疾患の概要
食道静脈瘤(しょくどうじょうみゃくりゅう)とは、食道の粘膜下にある静脈が異常に拡張し、瘤(こぶ)のように膨らんだ状態を指します。これは肝硬変などにより門脈圧(肝臓に流れ込む静脈の血圧)が上昇し、血液が食道の静脈を経由して体に戻ろうとする過程で生じる合併症です。
本来、食道の静脈は細く目立たない構造ですが、門脈圧亢進により血流が集中することで、血管壁が膨張しやすくなります。その結果、血管が破裂しやすくなり、時に命に関わるような大出血を引き起こすことがあるため、注意深い管理と定期的な検査が重要です。
発症の主な原因には以下のような背景疾患があります:
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肝硬変(最も多い)
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慢性肝炎(B型、C型など)
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アルコール性肝障害
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門脈血栓症
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先天性門脈異常
日本国内では、肝硬変患者のおよそ5~7割に何らかの食道静脈瘤が認められ、特に肝硬変が進行した症例やアルコール性肝障害を持つ中高年男性に多くみられます。
2. 主な症状
食道静脈瘤そのものは、破裂しない限り自覚症状が出にくいのが特徴です。しかし、破裂・出血が起こると以下のような症状が急激に現れます:
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吐血(鮮血やコーヒーかす様の血)
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黒色便(タール便)
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立ちくらみ、冷や汗、意識障害(出血性ショック)
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貧血、息切れ
破裂時は短時間に大量の出血を起こすことが多く、緊急での内視鏡処置が必要となるケースがほとんどです。また、初期には胃もたれや胸の違和感、食後の吐き気といった非特異的な症状が出ることもありますが、他の疾患(胃潰瘍や逆流性食道炎)と見分けがつきにくいため、定期的な内視鏡検査による早期発見が重要です。
3. 診断に必要な検査
食道静脈瘤の診断と管理には、内視鏡検査を中心に、必要に応じて画像検査や血液検査を組み合わせて行います。
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上部消化管内視鏡(胃カメラ)
最も確実な検査方法で、静脈瘤の**大きさ、形状、出血のリスク(赤色徴候の有無など)**を詳細に観察します。治療の要否もこの検査で判断します。
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血液検査
肝機能(AST、ALT、ALPなど)、血小板数、凝固能(PT、INR)などを評価し、肝疾患の進行度や出血リスクを把握します。
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腹部エコー、CT検査
肝硬変の所見や脾腫、腹水、門脈径の拡張など、全体的な病態を把握するための補助的検査です。
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内視鏡的超音波検査(EUS)
静脈瘤の深さや連続性の確認に有用です。
診断の流れとしては、肝疾患を有する方に定期的な内視鏡を実施し、出血のリスクが高いと判断された場合は予防的な治療へと移行します。
4. 主な治療方法
治療は、**破裂前の予防的治療(一次予防)と、破裂後の止血治療(二次治療)**に大別されます。
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内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)
輪ゴムのような器具で瘤を結紮し、血流を止める治療法です。出血の予防と止血に最も広く用いられている第一選択です。
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内視鏡的硬化療法(EIS)
瘤に直接硬化剤を注入して閉塞させる方法で、再発が少ない一方、技術的にやや難易度が高いとされます。
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β遮断薬の内服(薬物療法)
門脈圧を下げる目的で使用します。内視鏡治療と併用することで再出血のリスクを低減します。
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バルーンタンポナーデ・TIPS(重症例)
破裂による大量出血が止まらない場合に使用されますが、高次医療機関での対応が必要です。
泉胃腸科外科医院では、内視鏡的結紮術(EVL)や薬物治療による予防管理を中心に、定期的な経過観察と肝疾患への包括的対応を行っています。
5. 予防や生活上の注意点
食道静脈瘤は、原因となる肝疾患のコントロールと、破裂を防ぐための定期的なチェックが最も重要な予防策です。
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肝疾患(特に肝硬変)の進行を抑えることが最優先
・ウイルス性肝炎は適切な抗ウイルス治療を
・アルコール性肝炎では禁酒を徹底
・脂肪肝やNASHの場合は食事・運動療法の継続
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内視鏡検査の定期受診
・静脈瘤の有無・サイズ・赤色徴候の有無を定期的に評価し、出血リスクに応じた治療を計画
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出血予防のための注意点
・便秘によるいきみを避ける
・刺激物や硬い食物で粘膜を傷つけないようにする
・咳や嘔吐が続く場合は早めの対処を
食道静脈瘤は、破裂すると命に関わる危険な疾患ですが、適切なタイミングでの内視鏡検査と予防的治療によって、出血を防ぐことが可能です。
泉胃腸科外科医院では、肝疾患をお持ちの患者さまに対する定期的なモニタリングと、出血予防のための治療・生活指導を丁寧に行っております。
「肝臓の病気がある」「過去に静脈瘤があると言われた」「最近、胃もたれや胸の違和感がある」など、気になる症状がある方は、ぜひ一度ご相談ください。