口腔内・のど・食道

食道がん(食道腺がん)・食道胃接合部がん

1. 疾患の概要

食道がんは、食道粘膜に発生する悪性腫瘍で、日本では扁平上皮がんが大多数を占める一方、近年注目されているのが「食道腺がん」です。腺がんとは、食道の下部や胃との境界部(食道胃接合部)に存在する「腺上皮」から発生するがんであり、バレット食道という前がん病変に由来することが多いのが特徴です。食道胃接合部に発生する腺がんを特に食道胃接合部がんと呼びます。

もともと日本では稀とされていましたが、生活の欧米化(高脂肪食、肥満、逆流性食道炎の増加など)に伴い、腺がんの発症率も上昇傾向にあります。特に逆流性食道炎のある人に多く、長年の胃酸逆流が原因でバレット食道を経て腺がんへと進展することがあります

発症の要因として以下が挙げられます:

  • 逆流性食道炎(胃酸逆流)

  • バレット食道の存在

  • 肥満・高脂肪食中心の食生活

  • 喫煙

  • 慢性的なアルコール摂取

  • 遺伝的素因や慢性炎症

日本国内での腺がんの罹患率は、扁平上皮がんと比較するとまだ低いものの、欧米ではすでに腺がんが主流となっており、今後国内でも増加が予測されています。

発症は中高年男性に多く、特に肥満体型で逆流性食道炎の既往がある方は要注意です。


2. 主な症状

食道腺がんは、初期にはほとんど自覚症状がないことが多く、進行とともに次第に症状が現れてきます。代表的な症状は以下の通りです:

  • 食べ物がつかえる(嚥下困難)

  • 胸や喉の違和感

  • 胸やけや呑酸(酸っぱい液が上がってくる)

  • 体重減少、食欲低下

  • 咳、声のかすれ(進行時)

  • 吐血や黒色便(出血がある場合)

これらの症状は、逆流性食道炎や胃がんとも共通しており、早期発見のためには症状だけでなく定期的な内視鏡検査が重要です。

特に、バレット食道と診断された方は、がん化のリスクがあるため定期的な経過観察が推奨されます。


3. 診断に必要な検査

食道腺がんの診断には、上部内視鏡検査(胃カメラ)を中心に、画像診断・病理検査を組み合わせて行います

  • 上部消化管内視鏡(胃カメラ)

     食道下部やバレット上皮に異常(びらん、潰瘍、隆起、発赤など)がないかを確認し、**疑わしい部位から組織を採取(生検)**してがんの有無を調べます。

  • 特殊内視鏡技術(拡大内視鏡、NBIなど)

     がんの早期発見に役立ち、微細な粘膜変化を見分けやすくします。

  • CT検査

     がんの進行度(深達度)、リンパ節・他臓器への転移の有無を評価します。

  • 超音波内視鏡(EUS)

     腫瘍の壁への浸潤の程度や周囲組織との関係を詳細に把握できます。

  • PET-CT検査(必要に応じて)

     全身の転移検索に用います。

診断は、初診→内視鏡検査→生検結果の確定→画像検査によるステージ分類という流れで行われます。


4. 主な治療方法

治療法は、がんの進行度、体力、全身状態に応じて選択されます。

  • 内視鏡治療

     がんが粘膜層にとどまる場合、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)での切除が可能ですが、食道胃接合部のがんの深さの内視鏡診断は非常に難しく、当初内視鏡切除可能と判断されていても、手術が必要になることがあります。切除後は、再発やバレット食道の残存に対する定期的なフォローが必要です。

  • 手術療法

     粘膜より深く進行した腺がんに対しては、食道切除術および再建術(胃や腸を用いる)が行われます。周囲リンパ節の郭清を併せて実施します。食道胃接合部がんの場合は下部食道切除および噴門側胃切除(胃の上半分を切除する)が適応になる場合もあります。

  • 化学放射線療法

     手術不能例や高齢で手術が難しい場合には、放射線治療と抗がん剤(化学療法)を併用した治療が行われます。

  • 免疫療法・分子標的薬(一部症例)

     進行例で特定の遺伝子変異を有する症例には、新しい治療法が検討されることもあります。

当院では、内視鏡検査による早期発見、病理診断、そして手術が必要な場合の専門医療機関への迅速な連携まで一貫した診療を提供しております。


5. 予防や生活上の注意点

食道腺がんは生活習慣と強く関連する疾患であり、以下のようなポイントが予防につながります:

  • 逆流性食道炎の早期治療・継続治療

     ・PPI(プロトンポンプ阻害薬)などを用いた胃酸のコントロール

     ・寝る前の飲食を控える、枕を高くするなどの生活改善

  • 肥満の改善と体重管理

     ・内臓脂肪型肥満は逆流の大きな原因です

  • 禁煙・節酒

     ・喫煙と飲酒は腺がんの発症リスクを高めます

  • 食物繊維・抗酸化物質を多く含む食事

     ・野菜や果物の摂取ががん予防に効果的とされています

  • 定期的な内視鏡検査

     ・バレット食道と診断された方は、年1回程度の胃カメラ検査が推奨されます


食道腺がんは、日本ではまだ少数派ながら、今後増加が懸念される疾患です。

特に逆流性食道炎やバレット食道を有する方は、自覚症状が乏しくても定期的な内視鏡検査を通じて、がんの早期発見を心がけることが重要です。

泉胃腸科外科医院では、消化器専門医による丁寧な内視鏡検査と、生活習慣指導・疾患管理までを含めた包括的な診療を行っております。

不安な症状がある方、検診をご希望の方は、どうぞお気軽にご相談ください。