口腔内・のど・食道

マロリーワイス症候群

1. 疾患の概要

マロリーワイス症候群とは、激しい嘔吐や咳、あるいは強い腹圧が加わることによって、食道と胃の境目(胃食道接合部)の粘膜が裂けて出血する状態を指します。1950年代にアメリカのマロリー医師とワイス医師によって報告されたことから、この名前がついています。

この病気は、食道からの出血性疾患の一つであり、比較的突然に発症することが多いのが特徴です。裂ける(裂傷)といっても、ほとんどは粘膜表層の傷にとどまることが多く、自然に止血するケースもありますが、出血量が多い場合には内視鏡治療が必要になることもあります。

主な誘因には以下のようなものがあります:

  • 嘔吐や嘔気の反復(過度の飲酒後や妊娠悪阻など)

  • 咳の連発、くしゃみ、排便時のいきみ

  • アルコールの過剰摂取

  • 暴飲暴食や過度の腹圧増加

  • 過去の消化管疾患や内視鏡検査後の刺激

日本国内における発症頻度はそれほど高くはありませんが、上部消化管出血の原因としては10〜15%程度を占めるとされ、中高年男性や、過度の飲酒歴を有する方に多くみられます。


2. 主な症状

マロリーワイス症候群のもっとも特徴的な症状は**吐血(とけつ)**です。突然の嘔吐のあとに鮮血を吐いたり、血混じりの嘔吐が出現することで気づかれることが多く、以下のような症状を伴います:

  • 吐血(鮮紅色〜暗赤色の血)

  • みぞおちや胸のあたりの違和感、軽い痛み

  • 貧血症状(めまい、ふらつき、動悸など)

  • 黒色便(下部消化管へ出血が及んだ場合)

出血量が少ない場合は症状が軽く済むこともありますが、出血が多量になると急激な血圧低下や意識障害を起こすこともあるため、迅速な対応が必要です。

吐血がある場合、胃潰瘍や食道静脈瘤破裂との鑑別が重要です。とくに食道静脈瘤破裂は緊急性が高く、早期の見極めが求められます。


3. 診断に必要な検査

マロリーワイス症候群の確定診断には、上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)が必須です。その他、必要に応じて以下の検査が行われます:

  • 上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)

     胃と食道の境界部を直接観察し、縦走する裂け目(線状潰瘍)と出血部位を確認します。出血中または出血の痕跡(血痕やかさぶた)が見られることが多く、同時に止血処置が行える点も大きな利点です。

  • 血液検査

     出血の程度を評価するため、ヘモグロビン値や貧血の有無、炎症反応、凝固機能などを調べます。

  • 腹部CTやレントゲン(重症例)

     穿孔や他の消化管疾患が疑われる場合に追加されます。

診断の流れとしては、まず症状と病歴を聞き取り、緊急性がある場合は早急に内視鏡検査を行い、必要であれば止血処置を同時に実施します。


4. 主な治療方法

マロリーワイス症候群の治療は、出血の程度と全身状態に応じて内科的・内視鏡的に対応します。

  • 内科的治療(軽症例)

     ・絶食と点滴による安静療法

     ・**胃酸抑制薬(PPI、P-CAB)**の投与で粘膜の修復を促進

     ・止血剤の内服・点滴

 多くの軽症例では自然に止血し、数日〜1週間ほどで粘膜も再生します。

  • 内視鏡的止血術(中〜重症例)

     ・内視鏡下でのクリッピング(止血用クリップ)や薬剤注入法(エピネフリン注入)

     ・高周波凝固装置による止血処置

  • 輸血・入院管理

     貧血が著しい場合や再出血が懸念される場合には、輸血や入院による経過観察が行われます。

当院では、緊急性を要する吐血症例に対しても迅速な内視鏡検査・処置体制を整えており、また軽症例に対しては外来での薬物療法と生活指導を丁寧に行っています。


5. 予防や生活上の注意点

マロリーワイス症候群は適切な生活習慣の見直しにより予防や再発のリスクを抑えることが可能です。

  • 過度の飲酒を控える(特に空腹時の飲酒は要注意)

  • 嘔吐を繰り返さないよう、暴飲暴食を避ける

  • 便秘や排便時のいきみを避ける

  • 適度な運動とストレスコントロール

  • 胃酸逆流のある方は治療継続を忘れずに

また、胃腸が弱っているときには無理に食事を摂らず、消化のよいものをゆっくり摂ることを心がけましょう。


マロリーワイス症候群は突然の吐血という劇的な症状で発症しますが、ほとんどのケースで内視鏡的・内科的治療により良好な経過をたどることができます。

ただし、再発予防や早期の対応のためには、症状が現れた時点で速やかに受診することが非常に重要です。

当院では、上部消化管出血に対する迅速な内視鏡検査、薬物治療、生活習慣のアドバイスまで総合的なケアを提供しております。気になる症状がある方は、どうぞお気軽にご相談ください。