口腔内・のど・食道
食道潰瘍
1. 疾患の概要
食道潰瘍とは、食道の粘膜がただれて深い傷(潰瘍)を形成している状態を指します。食道は、口から飲み込んだ食べ物や水分を胃に運ぶ役割を担っており、その粘膜は非常に繊細です。ここに強い刺激や炎症が加わることで、粘膜の防御機能が破綻し、潰瘍が生じることがあります。
原因は多岐にわたりますが、代表的なものには以下が挙げられます:
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胃酸や胆汁の逆流(逆流性食道炎の重症化)
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薬剤(特に鉄剤、NSAIDs、ビスホスホネートなど)による刺激
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感染(ヘルペスウイルス、カンジダなど)
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飲酒・喫煙や香辛料の多い食生活
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精神的ストレスや加齢による防御力の低下
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放射線治療や誤嚥による化学性傷害
まれに、悪性腫瘍やアカラシアなどの基礎疾患に伴って潰瘍が形成されることもあるため、正確な診断が重要です。
日本国内では、逆流性食道炎の増加や高齢化により、中高年層を中心に食道潰瘍の発症率がやや増加傾向にあります。性別を問わず発症しますが、胃酸分泌が活発な男性や、複数の薬剤を服用する高齢者に多く見られる傾向があります。
2. 主な症状
食道潰瘍の症状は、潰瘍の部位や大きさ、原因によって異なりますが、以下のような症状がよく見られます:
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胸の痛み・しみる感じ(胸骨後部痛)
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嚥下時の痛み(嚥下痛)
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喉のつかえ感、飲み込みにくさ(嚥下困難)
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胸やけ、酸っぱいものが上がる感じ(呑酸)
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食欲不振、体重減少
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吐血や黒色便(潰瘍からの出血がある場合)
これらの症状は、逆流性食道炎や食道がんとも類似しているため、画像検査による鑑別が不可欠です。重症の場合には、出血や穿孔(穴が開く)などの合併症を引き起こすこともあります。
3. 診断に必要な検査
食道潰瘍の診断には、内視鏡検査が中心となり、必要に応じて他の検査を併用して原因や重症度を評価します。
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上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)
潰瘍の位置・大きさ・深さ・出血の有無を直接観察し、**必要に応じて組織の一部を採取(生検)**して、がんや感染の有無を確認します。
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血液検査
貧血の有無、炎症反応、感染指標を確認し、全身状態を評価します。
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胸部CT・バリウム造影検査(必要時)
穿孔や広範な病変が疑われる場合に補助的に使用されます。
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感染検査(カンジダ・ヘルペスなど)
免疫低下がある患者さまでは、真菌・ウイルス性潰瘍の可能性も考慮します。
診断の流れは、問診と内視鏡検査を組み合わせ、必要に応じて追加検査を行うことで正確な診断に至ります。
4. 主な治療方法
食道潰瘍の治療は、原因の除去と粘膜の修復を促す薬物療法が中心です。原因ごとに以下のような治療が行われます:
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薬物療法
・プロトンポンプ阻害薬(PPI)やP-CAB:胃酸の分泌を抑え、潰瘍の治癒を促進
・粘膜保護薬(スクラルファートなど):傷ついた粘膜を保護
・抗真菌薬・抗ウイルス薬:カンジダやヘルペスが原因の場合に使用
・止血薬・鉄剤:出血がある場合や貧血を伴う場合に併用
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原因薬剤の中止または変更
潰瘍の原因と考えられる薬剤(鉄剤やNSAIDsなど)は、医師の指導のもと中止または変更します。
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生活習慣の改善
・過度の飲酒・喫煙・刺激物の摂取を控える
・規則正しい食生活と睡眠を意識する
・ストレスの緩和、姿勢の見直し(食後すぐに横にならない など)
治療期間は1〜2か月程度が目安で、潰瘍の大きさや再発の有無により調整します。必要に応じて、再検査を行い治癒の確認を行います。
当院では、内視鏡検査による的確な診断と、薬物療法・生活指導を組み合わせた治療を提供しております。
5. 予防や生活上の注意点
食道潰瘍を予防するには、日常生活でのちょっとした工夫と、服薬や食生活への注意が重要です。
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薬の服用時には十分な水とともに、直立した姿勢で服用する
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就寝前の飲食や服薬は避ける
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食後すぐに横にならない、寝る際は枕を少し高めに
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禁煙・節酒を心がける
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香辛料・カフェインなど刺激の強い食事は控えめに
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日頃から胃酸逆流を引き起こさないよう、肥満や便秘の改善に努める
また、逆流性食道炎や薬剤性食道炎などの既往がある方は、再発の予防のためにも定期的な内視鏡検査と生活習慣の見直しが推奨されます。
食道潰瘍は、適切な治療を受ければほとんどの場合で改善が見込める疾患です。
しかし、放置すると出血や狭窄、穿孔などの重篤な合併症を引き起こす恐れがあるため、「胸がしみる」「飲み込みにくい」といった症状がある場合は早めの受診が大切です。
当院では、食道疾患に精通した医師による診療と、患者さまの生活に寄り添った治療提案を行っております。どんな些細な症状でも、お気軽にご相談ください。