症状

臍周囲痛(おへそ周辺の痛み)

■ 臍周囲痛を起こす主な鑑別疾患(全9選)

1. 急性虫垂炎

典型的には右下腹部痛を呈しますが、発症初期には臍の周囲に痛みを感じることがあります。
若年層に多く、発熱、悪心、食欲不振を伴い、数時間で痛みが右下腹部へ移動するのが特徴です。
【検査】腹部CT、血液検査(白血球、CRP)、腹部超音波。


2. 腸炎(ウイルス性・細菌性)

小腸の炎症により臍周囲に痛みが出やすく、下痢・嘔吐・発熱を伴います。
全年齢に発症しやすく、集団生活や旅行後の発症にも注意が必要です。
【検査】便培養、便ウイルス抗原、血液検査、腹部超音波。


3. 腸閉塞(イレウス)

癒着や腫瘍などにより腸の通過が障害され、臍周囲の膨満感や痛み、吐き気を生じます。
手術歴のある高齢者に多く、進行すると排ガス停止や嘔吐もみられます。
【検査】腹部X線、腹部CT、血液検査(電解質・炎症反応)。


4. 慢性便秘

腸管内に便が長く滞留することで、臍周囲に張りや痛みが生じます。
高齢者や女性に多く、運動不足や水分摂取不足も関係します。
【検査】腹部X線、触診、腹部超音波、大腸内視鏡(除外診断)。


5. ヘルニア(臍ヘルニア・腹壁瘢痕ヘルニア)

腹壁の隙間から腸管が脱出し、臍周囲に腫れや痛みを生じます。
乳幼児や手術後の成人に見られ、嵌頓(締め付け)すると緊急処置が必要です。
【検査】視診・触診、腹部超音波、CT。


6. 機能性腹痛(機能性ディスペプシア・過敏性腸症候群など)

構造的異常がないにもかかわらず、臍周囲に慢性的な痛みが生じることがあります。
小児や若年者、ストレスの多い環境にある方に多く、排便や食事に関連することもあります。
【検査】腹部超音波、血液検査、除外的に内視鏡検査など。


7. 小腸腫瘍(小腸がん・小腸カルチノイド・悪性リンパ腫など)

まれではありますが、小腸の腫瘍やリンパ腫により臍周囲の鈍痛が持続的に生じます。
体重減少、食欲低下、貧血などの全身症状を伴う場合は注意が必要です。
【検査】腹部CT、消化管造影、カプセル内視鏡、生検。


8. 腹部大動脈瘤(拡張型・破裂前)

大動脈の拡張や血管壁の亀裂が臍周囲の拍動性痛として感じられることがあります。
高齢男性に多く、動脈硬化・高血圧・喫煙歴がある方で注意が必要です。
【検査】腹部超音波、造影CT、血圧・脈拍評価。


9. 卵巣出血・子宮疾患(放散痛)〔女性限定〕

卵巣出血や子宮筋腫などの骨盤内疾患が、臍周囲に放散痛として感じられることがあります。
妊娠可能年齢の女性で、月経異常や性交痛がある場合は婦人科的評価が重要です。
【検査】経腟超音波、妊娠反応検査、血液検査、内診。


■ 補足

臍周囲痛は小腸や腸間膜由来の疾患に加え、便秘・機能性疾患・外科的緊急疾患・婦人科疾患・血管疾患など多様な要因で起こります。痛みの経過、随伴症状(下痢、嘔吐、発熱、腫脹、出血など)を踏まえ、適切な画像・血液・便・尿検査を組み合わせて診断することが重要です。