小腸・大腸・肛門
直腸脱
1. 疾患の概要
直腸脱(ちょくちょうだつ)とは、直腸の一部または全体が肛門の外へ飛び出してしまう状態を指します。直腸は大腸の最後の部分で、通常は骨盤底筋や肛門括約筋に支えられて肛門内に留まっていますが、これらの支持機構が弱くなることで直腸が脱出することがあります。
軽度の場合は排便時のみ一時的に脱出し、自然に戻ることもありますが、進行すると立ち上がっただけで直腸が外に出るようになり、手で押し戻さなければ戻らなくなることもあります。進行により生活の質(QOL)を大きく損なうため、早期の診断と治療が重要です。
直腸脱の主な原因としては、加齢による骨盤底筋の弛緩、出産経験(特に多産)、慢性の排便障害や便秘、長年のいきみ習慣、神経疾患(脊髄損傷や脳血管障害)などが挙げられます。男性よりも女性に多く、特に高齢女性に好発する疾患です。
2. 主な症状
直腸脱の症状は進行度によって異なりますが、以下のようなものが代表的です:
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排便時に肛門から赤い腸管が突出する
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腸管が肛門の外に出たまま戻らない
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脱出部分の出血や粘液分泌
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排便時の違和感、残便感
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失禁や排便のコントロール困難
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会陰部(肛門周辺)の違和感や重だるさ
進行すると脱出部分の血流障害による腸管のうっ血や壊死を引き起こす恐れもあります。また、直腸脱と内痔核の脱出は見た目が似ており、鑑別診断が重要です。
3. 診断に必要な検査
直腸脱の診断は、まず視診および肛門診にて確認されます。脱出が明らかであれば比較的容易に診断がつきますが、軽度の脱出や症状が不明瞭な場合は以下の検査を行います。
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視診・肛門診:排便時に肛門外に腸管が脱出するかを確認。
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肛門内圧検査:括約筋の機能評価。
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排便造影検査(デフェコグラフィー):排便時の直腸や骨盤底筋の動きを評価。
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大腸内視鏡検査:腫瘍や他の疾患の合併を除外する目的。
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腹部・骨盤CTやMRI:解剖学的構造や筋肉の評価に有用。
当院では、患者様の症状に応じて適切な検査を選択し、正確な診断に努めています。
4. 主な治療方法
直腸脱の治療は、脱出の程度や患者様の年齢、基礎疾患、QOLへの影響を考慮して選択されます。
保存的治療(軽症例)
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排便指導(便秘の改善、いきみの回避)
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骨盤底筋体操(Kegel体操)
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食事療法(食物繊維の摂取)
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薬物療法(便軟化剤や整腸剤)
これらの保存的治療は一時的な症状の緩和には有効ですが、根本的な改善には外科的治療が必要なケースが多いです。
手術療法
手術は大きく分けて「腹腔側からの手術」と「会陰側からの手術」に分類されます。
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腹腔鏡下直腸固定術(リダクション&固定)
⇒ 比較的若年で全身状態の良い方に適応される標準術式です。 -
デルベー法(会陰側手術)
⇒ 高齢者や全身麻酔が難しい方に適した術式です。
当院では、手術が必要と判断された場合には、近隣の連携病院と連携して治療を行い、ご希望があれば術後の経過観察やフォローアップを当院で継続して行います。
5. 予防や生活上の注意点
直腸脱の再発や進行を防ぐためには、以下のような生活習慣の見直しが重要です:
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排便習慣の改善:長時間のいきみや便秘は避ける
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適度な運動:骨盤底筋の維持
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食物繊維を多く含む食事:便通を整える
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排便を我慢しない:便意を感じたら早めにトイレへ
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過度な腹圧をかけない生活:重いものを持つ動作の制限
進行した直腸脱は自然に治ることはなく、放置することで悪化する可能性が高いため、気になる症状がある場合は早めにご相談ください。