小腸・大腸・肛門
下痢症
1. 疾患の概要
下痢とは、通常よりも水分の多い便が頻回に排泄される状態を指します。便の形状が軟便から水様便まで幅広く、排便回数も1日数回から10回以上に及ぶ場合もあります。急性に発症して数日で改善する急性下痢と、3週間以上続く慢性下痢に分類され、それぞれで原因や対応が異なります。
下痢は、胃腸の感染症、薬剤、食事、ストレス、腸の炎症性疾患など、さまざまな要因で引き起こされます。特に近年では、ウイルス性腸炎や過敏性腸症候群、炎症性腸疾患(IBD)などが慢性下痢の原因として注目されています。
2. 主な症状
下痢によって引き起こされる症状は、原因や重症度によって異なりますが、以下のようなものが一般的です。
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水様性または泥状の便が頻繁に出る
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腹痛(特にお腹がゴロゴロ鳴る、差し込むような痛み)
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発熱(感染性腸炎などに多い)
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吐き気、嘔吐
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食欲不振
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脱水症状(口渇、倦怠感、立ちくらみ)
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血便(赤色や黒色、粘液混じり)
急性下痢では、細菌やウイルスによる感染が多く、短期間で回復することが一般的です。一方、慢性下痢では、大腸がん、クローン病、潰瘍性大腸炎、膵疾患、甲状腺機能亢進症などが原因であることもあるため、正確な診断が不可欠です。
3. 診断に必要な検査
下痢の原因を見極めるためには、以下のような検査が行われます:
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問診:発症時期、便の性状、食事内容、旅行歴、薬剤使用、併発症状などを詳細に確認します。
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血液検査:炎症の有無、脱水の程度、貧血や栄養状態を確認します。
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便培養検査・便ウイルス検査:細菌性腸炎(サルモネラ、カンピロバクターなど)やノロウイルス、ロタウイルスなどの検出に用います。
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大腸内視鏡検査:慢性的な下痢、血便、体重減少などがある場合に実施し、大腸がんや炎症性疾患を評価します。
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腹部エコー・CT検査:腸管の炎症、腫瘤、リンパ節腫脹などを確認します。
当院では、症状と背景に応じて、必要最小限かつ効果的な検査を提案いたします。
4. 主な治療方法
下痢の治療は、原因の特定とその除去、症状の緩和、脱水の予防と補正を基本とします。
① 原因に応じた治療
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感染性腸炎:軽症例は自然治癒が多く、整腸剤の使用が中心です。細菌性の場合は必要に応じて抗生剤を使用します。
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薬剤性下痢:原因薬剤を中止または変更することで改善が見込まれます。
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炎症性腸疾患(IBD):潰瘍性大腸炎やクローン病には、5-ASA製剤、ステロイド、免疫調整薬、生物学的製剤などを使用します。
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過敏性腸症候群(IBS):生活習慣の見直しと薬物療法、ストレスケアを組み合わせた治療を行います。
② 対症療法
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整腸剤(乳酸菌製剤など)
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止痢剤(ロペラミドなど)※感染性腸炎では使用を避ける場合があります
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電解質補正:経口補水液(OS-1など)の摂取や点滴による補液が必要なこともあります
5. 予防や生活上の注意点
下痢を予防するため、以下の点に注意しましょう:
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手洗いの徹底:特に調理・食事・トイレの後は重要です。
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食品の衛生管理:生ものや加熱不十分な食品の摂取を避けましょう。
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飲料水の安全確認:特に海外渡航時は注意が必要です。
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整腸習慣の確立:発酵食品や食物繊維の摂取を心がけるとともに、睡眠・運動も大切です。
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慢性化した下痢の放置を避ける:1週間以上続く下痢や、血便、体重減少を伴う場合は速やかに受診してください。
当院での対応
当院では、感染性下痢から慢性疾患まで、幅広い原因に対して的確な診断と治療を行っています。必要に応じて大腸内視鏡検査や画像診断、病原体検査も実施可能です。症状が長引く、悪化してきた、繰り返しているといった場合は、お早めにご相談ください。