肝臓・胆のう・膵臓

慢性膵炎

■ 疾患の概要

慢性膵炎とは、膵臓(すいぞう)に長期間にわたって炎症が持続し、その結果として膵臓の組織が繊維化し、膵臓の機能が徐々に低下していく病気です。膵臓は、食物の消化を助ける消化酵素と、血糖値を調節するホルモン(インスリンなど)を分泌する重要な臓器です。

慢性膵炎が進行すると、消化吸収障害や糖尿病などを引き起こす可能性があります。初期には明確な症状が出にくいため、見逃されることも少なくありません。

主な原因としては、アルコールの過剰摂取が最多で、その他にも**高脂血症、自己免疫、遺伝性、特発性(原因不明)**などがあります。近年では、遺伝的要因や膵管の奇形が関係することも分かってきました。

■ 日本国内の罹患傾向

日本では、慢性膵炎の罹患率はおよそ人口10万人あたり20人程度とされ、男性に多く、40〜60代での発症が目立ちます。飲酒習慣のある方や、膵炎を繰り返している方は特に注意が必要です。

■ 主な症状

慢性膵炎の症状は進行度によって異なりますが、以下のようなものが挙げられます:

  • みぞおち〜背中にかけての鈍痛や慢性的な痛み

  • 脂っこい食事後の腹痛や不快感

  • 体重減少(食欲不振や消化不良による)

  • 下痢や脂肪便(脂肪分の吸収不良による)

  • 糖尿病の新規発症または悪化

早期には症状が軽度で、時に「胃の調子が悪い」「食後に違和感がある」といった曖昧な訴えに留まることもあります。症状が進行すると、膵機能の低下により明確な栄養障害や糖代謝異常が現れます。

■ 診断に必要な検査

慢性膵炎の診断には、症状の経過、検査結果、画像所見を総合的に評価する必要があります。主な検査は以下の通りです:

  • 血液検査:アミラーゼ・リパーゼといった膵酵素、血糖値、脂質代謝、ビタミン欠乏の有無などを確認します。

  • 腹部超音波検査:膵臓の形態や石灰化の有無を確認します。

  • 腹部CT検査:膵臓の萎縮や膵石、周囲の変化など、慢性変化の確認に有用です。

  • MRI(MRCP):膵管の狭窄や拡張などを非侵襲的に観察できます。

  • 内視鏡的逆行性膵胆管造影(ERCP):より詳細な膵管の評価が可能ですが、侵襲性が高いため慎重に適応を判断します。

当院では、必要に応じて血液検査・超音波検査を迅速に行い、精密検査が必要な場合は適切な専門機関と連携いたします。

■ 主な治療方法

慢性膵炎の治療は、進行を遅らせ、症状を緩和し、合併症を防ぐことが主な目的です。以下のようなアプローチがとられます:

  • 禁酒・禁煙:最も重要な治療であり、飲酒を続けると進行が早まります。

  • 食事療法:脂質を控えた消化の良い食事を推奨します。食事は少量頻回が望ましいです。

  • 酵素補充療法:膵外分泌機能低下に対して、消化酵素剤を処方します。

  • 鎮痛薬:持続する腹痛には、鎮痛剤を使用します。

  • 血糖管理:糖尿病を併発した場合、インスリン治療を含めた血糖管理が必要です。

  • 内視鏡・外科的治療:膵管狭窄や膵石による強い症状に対して、内視鏡治療や手術を検討することがあります。

当院では、膵酵素補充療法、食事指導、生活習慣の改善指導、薬物管理などを中心に、患者様に寄り添った治療を行っております。

■ 予防や生活上の注意点

慢性膵炎は生活習慣病的な側面もあり、以下の点を守ることで予防や進行抑制が期待できます:

  • アルコールは完全に控えること

  • 禁煙を徹底すること

  • 高脂肪食や暴飲暴食を避ける

  • 食後の強い腹痛が続く場合は早めに受診する

  • 脂肪便や体重減少が見られた場合は膵機能評価を行う


慢性膵炎は、時間をかけて進行する疾患であるため、早期診断と継続的な管理が非常に重要です。当院では、適切な検査と治療、そして患者様の生活スタイルに合わせた丁寧な指導を行っております。お腹の不調が続く方、以前に膵炎を指摘された方は、お気軽にご相談ください。