小腸・大腸・肛門

大腸メラノーシス

1. 疾患の概要

大腸メラノーシス(Melanosis coli)とは、大腸粘膜が黒褐色〜暗褐色に変色する状態を指します。この色の変化は「メラニン色素」ではなく、リポフスチンという色素が腸の粘膜に沈着することによって起こります。
この変化は病気というよりは「腸の状態を示すサイン」として捉えるのが適切です。主に大腸内視鏡検査
で発見されることが多く、視覚的に印象的な所見ではありますが、発がん性はないとされています。


2. 発症の原因と背景

大腸メラノーシスの原因として最も多いのは、刺激性下剤(アントラキノン系下剤)の長期使用です。これには以下のような薬が含まれます:

  • センナ(センノシド)

  • ダイオウ(大黄)

  • アロエ

  • カスカラ

これらはいずれも、腸を直接刺激して排便を促す作用を持っていますが、長期間の使用により大腸の粘膜細胞にアポトーシス(細胞死)を誘導し、マクロファージによりリポフスチンが蓄積される結果、メラノーシスが生じます。

その他、腸内フローラの変化や長期間の慢性便秘、食生活の乱れも関係している可能性があります。


3. 日本国内における傾向

日本においても近年、便秘症の高齢化・慢性化に伴い、大腸メラノーシスが検出される機会が増えています。特に高齢者や若年女性に多く、市販の便秘薬や民間療法としてのハーブ系下剤の使用が背景にあることが少なくありません。


4. 主な症状

大腸メラノーシスそれ自体には、自覚症状はありません。あくまで内視鏡検査で偶然発見されることが多い所見です。ただし、以下のような便秘に関連する症状を有していることが多いです。

  • 排便回数の減少

  • 腹部膨満感

  • 残便感

  • 下剤依存傾向

これらの症状は、大腸メラノーシスそのものというよりも、便秘の背景疾患として現れているものであると考えられます。


5. 診断に必要な検査

メラノーシスの診断は、基本的には大腸内視鏡検査によって行います。

  • 大腸内視鏡検査:大腸全体が薄茶色から黒褐色に着色しており、腸のひだ(ヒューストン弁)などがくっきりと浮かび上がるように見えるのが特徴です。

  • 生検(必要に応じて):他疾患との鑑別が必要な場合には粘膜組織を一部採取し、リポフスチンの沈着を顕微鏡で確認します。


6. 主な治療方法

メラノーシスそのものに対する特別な治療は不要です。ただし、原因となる刺激性下剤の中止が基本方針となります。

便秘に対する対応として:

  • 下剤の見直し:刺激性下剤を減量・中止し、酸化マグネシウムやルビプロストン、リナクロチドなどの非刺激性薬剤への変更を検討します。

  • 生活指導:食物繊維や水分摂取の改善、運動習慣の確立などを促します。

  • 整腸剤の併用:腸内環境を整えることで、自然な排便を促進します。

刺激性下剤の使用をやめれば、数ヶ月〜1年ほどでメラノーシスは自然に消失するとされています。


7. 予防や生活上の注意点

大腸メラノーシスの予防は、便秘を慢性化させず、適切な排便管理を行うことにあります。

  • 下剤を漫然と使い続けない:症状の根本的な原因に対処し、薬剤の使用は医師の指導のもとで行いましょう。

  • 食生活の改善:食物繊維(野菜、果物、穀物など)を積極的に摂取し、水分もこまめに補給します。

  • 腸内フローラを整える:ヨーグルトや発酵食品の摂取が勧められます。

  • 定期的な内視鏡検査:メラノーシスの背景に腫瘍性病変が隠れていないかを評価するためにも、定期的な検査が推奨されます。


当院での対応について

当院では、大腸内視鏡検査を通じてメラノーシスの有無を的確に診断し、必要に応じて生活指導や薬剤の見直しをご提案いたします。
便秘が慢性化している方や、市販薬を長期間使用されている方は、ぜひ一度ご相談ください。