口腔内・のど・食道

食道がん(食道扁平上皮がん)

1. 疾患の概要

食道がんとは、食道の粘膜にできる悪性腫瘍の総称であり、特に扁平上皮がんは日本人に最も多くみられるタイプです。食道の粘膜表面を覆う扁平上皮という組織に発生し、進行が早く、リンパ節や他臓器への転移を起こしやすいという特徴があります。

日本における食道がんの年間罹患数は約2万5千人とされ、そのうち約90%が扁平上皮がんであり、特に中高年男性に多くみられます。発症のピークは60代から70代で、女性よりも男性に多いことが知られています。

発症に関係するリスク要因は以下の通りです:

  • 喫煙

  • 過度の飲酒(特に日本人に多いアルコール代謝酵素の異常が関連)

  • 熱い飲食物の習慣

  • 栄養バランスの偏り(ビタミン不足など)

  • 食道粘膜の慢性刺激(逆流性食道炎、食道裂孔ヘルニアなど)

  • 遺伝的要因や前がん病変(異形成、バレット食道など)

早期の段階では症状がほとんど現れず、進行してから見つかることが多いため、定期的な検査による早期発見がとても重要です。


2. 主な症状

食道がんは、がんの進行に応じて次のような症状が現れます:

  • 食べ物が喉や胸につかえる感じ(嚥下障害)

  • 胸やけや胸の痛み

  • 食後の違和感や吐き気

  • 体重減少や食欲不振

  • 声のかすれ(反回神経の麻痺による)

  • 咳や血痰(気管支への浸潤時)

これらの症状は、逆流性食道炎や食道潰瘍と似ているため、区別が難しいこともあります。しかし、嚥下障害が徐々に悪化するような場合は、がんの可能性を疑って精密検査が必要です。


3. 診断に必要な検査

食道がんの診断では、内視鏡検査と画像検査を組み合わせて、がんの存在・進行度・転移の有無を確認します。

  • 上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)

     粘膜の異常(びらん、潰瘍、腫瘤)を直接観察し、**疑わしい部位の組織を採取(生検)**します。内視鏡の染色や拡大観察により、早期がんの発見も可能です。

  • CT検査(胸部・腹部)

     がんの深達度、周囲臓器への浸潤、リンパ節や遠隔転移の有無を確認します。

  • 超音波内視鏡(EUS)

     がんの壁深達度や局所リンパ節転移の評価に有用です。

  • PET-CT検査(必要時)

     全身のがん転移を評価するために行います。

  • 血液検査

     貧血や栄養状態の評価、腫瘍マーカー(SCC、CEAなど)の測定が行われます。

診断から治療方針の決定までには、がんのステージ(病期)を正確に把握することが重要です。


4. 主な治療方法

治療は、がんの進行度・患者さんの体力・合併症の有無などを考慮して選択されます。主な治療法は以下の通りです:

  • 内視鏡的治療(早期がん)

     粘膜内にとどまるがんに対して、**内視鏡的粘膜切除術(EMR)や粘膜下層剥離術(ESD)**が行われます。体への負担が少なく、日帰りまたは短期入院での対応も可能です。

  • 外科的手術

     がんが粘膜下層を超えて浸潤している場合には、食道切除術(リンパ節郭清を含む)と再建術が行われます。侵襲が大きいため、体力や年齢によっては慎重な判断が求められます。

  • 放射線療法・化学療法(抗がん剤)

     がんの進行度に応じて、術前・術後の補助療法、または根治を目的とした化学放射線療法が選択されます。近年では免疫チェックポイント阻害薬などの新規薬剤も使用されつつあります。

  • 緩和的治療(進行・末期がん)

     疼痛や嚥下困難の軽減を目的に、ステント留置や栄養管理が行われます。

泉胃腸科外科医院では、内視鏡検査による早期発見と、必要に応じた高次医療機関との連携(手術・放射線治療)を通じて、患者さま一人ひとりに最適な診療を提供いたします。


5. 予防や生活上の注意点

食道扁平上皮がんは、生活習慣と深く関係しているがんであり、日常の過ごし方が予防にも大きく影響します。

  • 禁煙・節酒の徹底

     喫煙と飲酒は明確な危険因子であり、とくに両者の併用でリスクが著しく高まります

  • 栄養バランスの取れた食事

     野菜や果物、ビタミン類(特にビタミンA、C、E)を十分に摂取することが予防につながります。

  • 熱すぎる飲食物を避ける

     熱い飲み物や食べ物による慢性的な粘膜刺激がリスクになります。

  • 定期的な内視鏡検査の実施

     特に喫煙歴・飲酒歴のある方、嚥下障害や胸やけを感じやすい方は、1〜2年に1回の上部内視鏡検査を推奨します。


食道がんは、初期には症状が乏しく、見逃されやすいがんのひとつです。しかし、内視鏡検査によって早期発見・治療が可能な疾患でもあります。

泉胃腸科外科医院では、早期診断に注力した胃カメラ検査と、地域の中核病院と連携した高度医療への橋渡しを行っております。

喫煙・飲酒歴があり、ご心配な方はぜひ一度ご相談ください。