小腸・大腸・肛門
大腸ポリープ(大腸腺腫・鋸歯状病変・過形成性ポリープ)
1. 疾患の概要
大腸ポリープとは、大腸の内側(粘膜)に発生する限局性の隆起性病変を指します。その形態は、茎のある「有茎性ポリープ」や、広く粘膜に接する「無茎性ポリープ」などさまざまです。多くは良性ですが、一部のポリープは大腸がんの前段階(前がん病変)である可能性があり、早期発見と適切な切除が重要とされています。
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腺腫(せんしゅ):最も一般的なタイプで、大腸がんの約7割以上がこの腺腫から発生するとされています。大きさが10mm以上になると、がん化のリスクが上昇します。
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鋸歯状病変(きょしじょうびょうへん):近年注目されている病変で、「SSA/P(鋸歯状腺腫)」や「TSAs(伝統的鋸歯状腺腫)」などがあり、特に右側結腸に多く見られます。形態的には一見良性に見えることもありますが、一定のがん化リスクがあるため注意が必要です。
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過形成性ポリープ:最も頻度が高いタイプで、がん化のリスクは低いとされています。ただし、複数ある場合や大きなサイズでは精密評価が望まれます。
発症の原因は完全には解明されていませんが、食生活(高脂肪・低食物繊維)、加齢、喫煙、飲酒、肥満、運動不足、遺伝的素因などが関与すると考えられています。特に大腸がんの家族歴がある方は注意が必要です。
日本における罹患率は年齢とともに上昇し、50歳以上では約半数にポリープが見つかるともいわれています。男女差は少ないものの、男性の方がやや多い傾向があります。
2. 主な症状
大腸ポリープの多くは無症状であり、健診や人間ドック、大腸カメラ(大腸内視鏡検査)で偶然発見されることがほとんどです。ただし、以下のような症状が見られる場合もあります:
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血便(鮮血または暗赤色便)
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下痢や便秘などの排便異常
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腹痛や腹部膨満感
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貧血(出血が持続した場合)
特に大きなポリープやがん化した病変では、これらの症状が明らかになることがあります。ただし、痔など他の疾患と症状が似ているため、正確な診断が必要です。
3. 診断に必要な検査
大腸ポリープの診断には、以下のような検査を組み合わせて行います。
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便潜血検査:便に混じった微量な血液を検出する検査です。大腸がん検診の一環として広く行われていますが、陰性でもポリープが存在することがあります。
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大腸内視鏡検査:直腸から盲腸までをカメラで直接観察する検査で、最も確実な診断法です。ポリープの大きさ、形状、色調を確認し、その場で切除も可能です。
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生検(組織検査):内視鏡で採取したポリープの一部を病理検査に提出し、良性か悪性かを評価します。
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腹部CT検査(CTコロノグラフィ):内視鏡が困難な場合に、非侵襲的に大腸の構造を確認できます。
通常は、便潜血陽性や症状がある場合に内視鏡検査を行い、病変を観察・切除することで診断と治療を兼ねて実施します。
4. 主な治療方法
大腸ポリープの治療は基本的に内視鏡的切除です。検査中に発見されたポリープは、サイズや形状に応じてその場で安全に取り除くことが可能です。
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ポリペクトミー(内視鏡的ポリープ切除術):茎のあるポリープに対して、スネアと呼ばれる輪状の器具で切除します。
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EMR(粘膜切除術):広がった平坦な病変に対して、粘膜下に薬液を注入して病変を浮かせてから切除します。
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ESD(粘膜下層剥離術):より大きな病変に対して用いられる高度な手技です。
大半のポリープはこれらの方法で日帰りもしくは短時間の入院で治療可能です。当院では鎮静剤を用いた苦痛の少ない内視鏡検査を実施しており、ポリープ切除にも対応しています。
切除後の経過観察も重要であり、再発や新たなポリープ発生に備えて定期的な内視鏡検査を行います。
5. 予防や生活上の注意点
大腸ポリープの発生や再発を防ぐためには、以下のような生活習慣が推奨されます:
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バランスの良い食事:野菜や果物、食物繊維を多く含む食事を心がけましょう。赤身肉や加工肉の過剰摂取は避けることが勧められます。
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適度な運動:週150分以上の中等度の運動(早歩きなど)が推奨されています。
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禁煙・節酒:喫煙や過剰な飲酒はポリープや大腸がんのリスクを高めます。
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肥満の予防:特に内臓脂肪型肥満は発症リスクとの関連が報告されています。
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定期的な内視鏡検査:40歳を過ぎたら一度は検査を受けることをお勧めします。ポリープ切除後も再発防止のため継続的なフォローが必要です。
大腸ポリープは早期発見・早期切除により、大腸がんへの進行を防げる疾患です。当院では、痛みを抑えた大腸内視鏡検査や、その場での安全なポリープ切除を実施しております。症状がない方でも、健診での異常や年齢的な節目を機に、ぜひ一度ご相談ください。