小腸・大腸・肛門
虚血性腸炎
1. 疾患の概要
虚血性腸炎(きょけつせいちょうえん)は、大腸の血流が一時的に低下することによって腸管粘膜に炎症や潰瘍を引き起こす病気です。特に左側の大腸(下行結腸やS状結腸)に好発し、高齢者に多くみられる傾向があります。
血流低下の原因としては、加齢に伴う血管の動脈硬化、脱水、便秘、血圧の急激な変動、過度な腹圧の上昇などが挙げられます。また、心疾患や糖尿病、高脂血症などの既往がある方もリスクが高まるとされています。
日本では中高年以降の女性に比較的多く、50歳以上の方での発症が目立ちますが、まれに若年層でもみられることがあります。
2. 主な症状
虚血性腸炎の代表的な症状には、以下のようなものがあります:
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突然の腹痛(特に左下腹部)
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血便や血性下痢
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軽度の発熱や倦怠感
腹痛は発症と同時に現れることが多く、排便とともに軽快することもあります。血便は鮮血であることが多く、驚いて来院される方も少なくありません。
症状の進行や重症度には個人差があり、軽症で自然に改善する場合もあれば、重症化して潰瘍や穿孔を伴うこともあります。他の大腸疾患、特に感染性腸炎や炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎など)、大腸がんなどとの鑑別が重要になります。
3. 診断に必要な検査
虚血性腸炎の診断は、問診・身体診察に加えて、以下の検査によって総合的に行われます。
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血液検査:炎症の有無(CRP、白血球数)や脱水の程度、貧血の有無を確認。
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腹部CT検査:腸管の壁肥厚や周囲脂肪組織の濃度上昇など、虚血性変化の所見を捉えます。
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大腸内視鏡検査:大腸粘膜のびらん、潰瘍、浮腫、紫斑などを直接観察。必要に応じて組織を採取(生検)します。
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便検査:感染症との鑑別のため、便培養や便中白血球の有無を確認します。
一般的には腹部症状を訴えて受診後、まずCTで虚血性の兆候を確認し、その後、炎症が落ち着いた時期に内視鏡検査で確定診断を行うことが多くなっています。
4. 主な治療方法
虚血性腸炎の多くは自然軽快型であり、入院を要さないケースも多く見られます。治療の基本は安静と支持療法です。
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食事制限・絶食:急性期には消化管の安静を保つため絶食とし、点滴で水分と電解質を補います。
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薬物療法:
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抗菌薬(必要に応じて):重症例や免疫力低下のある方に対して使用されることがあります。
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鎮痙薬・整腸薬:症状の緩和を目的に投与されます。
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鉄剤や止血剤:出血が強い場合に使用します。
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手術療法:非常にまれですが、腸管壊死や穿孔、出血がコントロールできない場合には外科的介入が必要となります。
当院では、画像検査や内視鏡検査を活用した早期診断に加え、必要に応じて入院紹介、在宅でのフォローアップ、薬物治療、生活指導を行っております。
5. 予防や生活上の注意点
虚血性腸炎の明確な予防法はありませんが、血流障害のリスクを減らす生活習慣が有効と考えられます。
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便秘の予防:水分や食物繊維をしっかり摂取し、腸の動きを良好に保ちましょう。
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脱水の防止:夏場や発熱時には水分補給を意識しましょう。
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血圧の管理:高血圧や降圧薬の過剰投与による血圧低下もリスクとなるため、医師と相談しながら適正に管理してください。
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定期受診:糖尿病や動脈硬化、高脂血症などの持病をお持ちの方は、定期的な通院と管理が大切です。
虚血性腸炎は再発や重症化のリスクがあるため、正確な診断と適切な対処が重要です。当院では、腹痛や血便といった症状に対して迅速な対応を心がけております。気になる症状がある方は、どうぞお気軽にご相談ください。