口腔内・のど・食道
バレット食道
1. 疾患の概要
バレット食道(Barrett食道)とは、食道の下部にある粘膜が、慢性的な胃酸の逆流によって本来の扁平上皮から腸上皮へと変化(腸上皮化生)する状態を指します。これは、体が胃酸から粘膜を守るために粘膜の構造を変化させる“適応反応”の一種ですが、この変化した粘膜は食道腺がん(腺癌)という悪性腫瘍の前がん病変とされ、慎重な経過観察が必要です。
バレット食道は、慢性的な胃食道逆流症(GERD)を背景に生じることが多く、逆流性食道炎が長期にわたって続いた結果として発生します。また、欧米に比べて日本では比較的頻度が少ないとされてきましたが、食生活の欧米化や高齢化の進行に伴い、近年では徐々に増加傾向にあります。
発症のリスク因子としては、以下が挙げられます:
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長期間にわたる胃食道逆流症(胸やけ、呑酸など)
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男性・高齢者(特に50歳以上の男性に多い)
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肥満(特に内臓脂肪型)
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喫煙歴
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食道裂孔ヘルニアの存在
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遺伝的背景(欧米人に多く、日本人では比較的少ない)
2. 主な症状
バレット食道自体には、特異的な症状はないことが多く、通常は逆流性食道炎の症状が前面に現れます。代表的な症状は次のとおりです:
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胸やけ(胸の中央部が焼けるような感覚)
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呑酸(すっぱい液体が喉まで上がる感じ)
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喉の違和感や声のかすれ
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慢性的な咳や咽頭痛
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食後の胃もたれや不快感
バレット食道そのものは自覚症状に乏しいため、内視鏡検査によって初めて発見されることが多いのが特徴です。進行して腺がんに変化した場合は、嚥下困難や体重減少、貧血、胸痛などが現れることがあります。
逆流症状が長期間にわたって続く方は、バレット食道の可能性を考慮して早期に検査を受けることが推奨されます。
3. 診断に必要な検査
バレット食道の診断には、主に内視鏡検査と組織検査(生検)が必要です。
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上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)
食道と胃の境界部分を詳細に観察し、通常の扁平上皮とは異なる赤みを帯びた円柱上皮(腸上皮化生)の範囲を確認します。染色や特殊光を用いた観察で、腺がんの早期発見も可能です。 -
組織検査(生検)
変化した粘膜の一部を採取し、顕微鏡で腸上皮化生の有無や異形成(がん化の前段階)がないかを確認します。 -
腹部エコー・CT検査(必要に応じて)
進行がんが疑われる場合には、周囲の臓器やリンパ節への転移の有無を評価します。
診断の流れとしては、まず逆流症状や既往歴をもとに内視鏡検査を行い、食道がんが疑われる場合は組織を採取して確定診断を行います。必要に応じて腫瘍マーカーや高次医療機関との連携を進めます。
4. 主な治療方法
バレット食道の治療には、逆流を抑えて症状を改善する治療と、がん化リスクに対する監視が中心となります。
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薬物療法
・プロトンポンプ阻害薬(PPI)やP-CABを用いて胃酸分泌を抑制し、食道粘膜への刺激を軽減します。
・胃粘膜保護薬を併用することもあります。 -
生活習慣の改善
・食後すぐに横にならない、就寝前2時間は飲食を控える
・腹圧を高めない(肥満の是正、便秘の改善)
・禁煙・節酒
・カフェイン、チョコレート、脂っこい食事の制限 -
内視鏡的治療(必要時)
異形成(がんになる前の細胞変化)が認められた場合には、内視鏡的粘膜切除術(EMR)や粘膜下層剥離術(ESD)を行います。がんが早期であれば、内視鏡治療のみで完治が期待できる場合もあります。 -
定期的な経過観察
腺がん発生のリスクを考慮し、内視鏡による定期検査(6〜12か月に1回程度)が推奨されます。
当院では、バレット食道の早期発見と適切な治療のために、最新の内視鏡機器と専門的な診断体制を整えております。必要に応じて、高次医療機関と連携し、がん化リスクへの対応も万全に行います。
5. 予防や生活上の注意点
バレット食道の予防および再発防止のためには、胃食道逆流を引き起こす要因を日常生活の中から減らすことが大切です。
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適正体重の維持(特に内臓脂肪の管理)
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脂っこい食事、カフェイン、アルコールを控える
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夕食は早めに済ませ、就寝前2〜3時間は飲食を控える
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禁煙の徹底
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ストレスを溜めすぎない生活、十分な睡眠
また、既にバレット食道と診断されている方は、定期的な内視鏡検査による経過観察と、薬の継続的な内服管理が重要です。軽い症状でも、放置せずに早めの相談が将来的なリスク低減につながります。
バレット食道は無症状のうちに進行することもある疾患ですが、早期に発見し、適切な治療と管理を行えば、がん化のリスクを最小限に抑えることができます。
当院では、逆流性食道炎や胸やけなどの症状をお持ちの方に対し、内視鏡検査を通じた正確な診断と、丁寧な治療・生活指導を提供しております。気になる症状がある方は、どうぞお気軽にご相談ください。