胃腸・消化器の疾患

咽喉頭異常感症(ヒステリー球)

1. 疾患の概要

**咽喉頭異常感症(Globus Sensation/Globus pharyngeus)**とは、喉や首のあたりに「何かが詰まっている」「喉が張っている」「異物がある」といった不快な感覚を持続的に感じる状態で、ヒステリー球とも呼ばれます。実際には明らかな構造異常や腫瘍などがないにもかかわらず、患者さまは強い違和感を訴えることが特徴です。

この疾患は、機能的な疾患と考えられており、検査で異常が見つからないのに症状が続くため、ご本人にとって大きな不安やストレスとなることがあります。

発症に関与する要因はさまざまで、以下が代表的です:

  • 胃食道逆流症(GERD)・咽喉頭逆流症(LPR)

  • ストレスや自律神経の乱れ

  • 咽頭・喉頭の軽度の炎症や過敏反応

  • 咽頭や食道の運動機能の変化

  • 甲状腺や頚椎の圧迫感(機械的要因)

日本国内では、中高年層の女性に比較的多くみられる傾向があり、更年期やライフスタイルの変化が症状に影響することもあります。耳鼻咽喉科や内科、消化器科など複数の診療科を受診される方も少なくありません。


2. 主な症状

咽喉頭異常感症により引き起こされる代表的な症状は以下の通りです:

  • 喉に何かが詰まっているような感覚

  • 喉や首が締めつけられるような違和感

  • 飲み込みにくさ(ただし実際に食べ物が通らないわけではない)

  • 喉の異物感・ざらつき感

  • 声の出しにくさ・軽い嗄声(声がれ)

  • 持続的な咳払いや咳

これらの症状は日中に強く、飲食時には軽減する傾向がある点も特徴的です。また、咽頭がんや食道がんなど重篤な病気と症状が似ていることもあり、患者さまにとっては強い不安の原因となります。

ただし、これらの器質的疾患は検査で明確に否定されるため、咽喉頭異常感症と診断されることで安心感が得られ、症状が軽快する方も多いのが現状です。


3. 診断に必要な検査

咽喉頭異常感症は、他の重篤な疾患を否定したうえで診断されるため、以下のような除外診断のための検査が行われます。

  • 上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)

     食道・胃の粘膜に異常がないかを調べます。逆流性食道炎や咽喉頭逆流症、バレット食道の有無を確認します。

  • 血液検査

     甲状腺機能や感染症、炎症反応の有無を確認します。

  • 頸部エコー・CT検査(必要時)

     甲状腺や頸椎の圧迫など、機械的要因がないかを評価するために行います。

  • 耳鼻咽喉科的内視鏡検査(ファイバースコープ)

     咽頭・喉頭・声帯に腫瘍や炎症、ポリープなどがないかを直接観察します。発赤や腫脹が見られる場合は逆流症の可能性を評価します。

診断の流れは、問診と身体所見をもとに内視鏡などの画像検査を行い、器質的疾患が否定された場合に「咽喉頭異常感症」として診断されます。


4. 主な治療方法

咽喉頭異常感症の治療は、原因の除去と症状の緩和を目的として、以下のような方法が取られます。

  • 薬物療法

     ・胃酸分泌抑制薬(PPI、P-CAB):胃食道・咽喉頭逆流の関与が疑われる場合に処方

     ・漢方薬(半夏厚朴湯、六君子湯など):自律神経調整や咽頭の違和感緩和に用いられます
      特に半夏厚朴湯は胃酸分泌抑制薬が無効な場合に内服を開始して症状が改善する方がしばしば見られます

     ・抗不安薬・抗うつ薬(必要時):強い不安やストレスが症状を増強する場合に検討されます

  • 生活習慣の見直し

     ・十分な睡眠と規則正しい生活

     ・ストレスのコントロール(リラクゼーション、趣味の時間など)

     ・カフェイン、アルコール、喫煙の制限

     ・食後すぐに横にならない、就寝前の飲食を避ける

  • 心理的サポート

     心理的要因の強い方に対しては、カウンセリングや認知行動療法の導入も効果的です。

治療期間は個人差がありますが、数週間から数か月で改善する方も多く、症状が軽減することで自然に治療を終了できるケースも少なくありません。

当院では、適切な検査と丁寧な診察に基づき、内科的治療と生活指導を組み合わせた治療を行っております。


5. 予防や生活上の注意点

咽喉頭異常感症の再発や悪化を防ぐためには、日々の生活習慣の見直しが重要です。

  • 喉を乾燥させないよう、こまめな水分補給

  • うがいや加湿器を活用し、喉の環境を整える

  • ストレスを溜めこまないよう、心身のリラックスを意識する

  • 食生活の改善(暴飲暴食、脂っこい食事を避ける)

  • 禁煙・節酒の徹底

また、「がんではないか」といった不安感が症状を悪化させることが多く、正しい診断と安心感を得ること自体が、治療の第一歩となります。


咽喉頭異常感症は、検査で異常が見つからないにもかかわらず、ご本人にとっては非常につらい症状です。しかし、原因を理解し、適切な治療と生活管理を行うことで改善が期待できます。

当院では、専門的な内視鏡検査をはじめとする診断と、薬物療法・生活指導・心理的ケアを含む包括的な対応を行っております。気になる症状がある方は、どうぞお気軽にご相談ください。