検査異常・健診異常

肝機能異常

【肝機能異常を起こす主な病気】

肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、自覚症状が出にくい臓器です。
血液検査でAST(GOT)、ALT(GPT)、γ-GTP、ALP、ビリルビンなどの数値が上昇している場合、
肝細胞や胆道に炎症や障害が起きている可能性があります。


1. アルコール性肝障害

中年男性に多く、日常的な飲酒が原因で肝細胞が障害されます。
初期は自覚症状に乏しいですが、進行すると脂肪肝→肝炎→肝硬変へ移行することがあります。
検査:肝機能検査(AST/ALT比)、γ-GTP、腹部超音波。


2. 脂肪肝(MAFLD:代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)

肥満・糖尿病・高脂血症のある方に多く、過剰な脂肪が肝臓に蓄積する病態です。
放置すると**MASH(代謝機能障害関連脂肪性肝炎)**に進行し、肝硬変や肝がんの原因になることもあります。
検査:腹部超音波、血液検査(脂質・血糖)、FibroScan(肝硬度測定)。


3. 薬剤性肝障害

サプリメント・解熱鎮痛薬・抗生物質などでも肝機能異常を起こすことがあります。
服薬開始後にAST・ALT上昇がみられる場合は医師に報告が必要です。
検査:服薬歴確認、肝酵素、自己抗体、腹部超音波。


4. ウイルス性肝炎(B型・C型)

20代~70代まで幅広い年齢層にみられ、感染初期は無症状ですが慢性化すると肝硬変・肝がんの原因となります。
輸血歴・針刺し事故・母子感染などがリスク要因です。
検査:HBs抗原・HCV抗体、肝炎ウイルス量、超音波。


5. 自己免疫性肝炎

中高年女性に多く、免疫の異常により自分の肝細胞を攻撃して炎症を起こします。
倦怠感・黄疸を伴うことがあり、放置すると肝硬変に進行します。
検査:自己抗体(ANA、SMA)、IgG、肝生検。


6. 原発性胆汁性胆管炎(PBC)

40〜60代女性に多い慢性胆汁うっ滞性疾患で、肝内の細い胆管が自己免疫により破壊されます。
かゆみ・倦怠感・黄疸などがみられ、早期発見で進行を抑えられます。
検査:抗ミトコンドリア抗体(AMA)、ALP・γ-GTP、腹部超音波。


7. 原発性硬化性胆管炎(PSC)

若年〜中年男性に多く、潰瘍性大腸炎との合併が多い胆管炎症性疾患です。
胆汁の流れが悪くなり、かゆみ・黄疸・肝腫大を伴います。
検査:MRCP(胆管画像)、ALP・γ-GTP、自己抗体。


8. 肝腫瘍(肝細胞がん・転移性肝がん)

肝炎や脂肪肝を背景に発症することが多く、初期は無症状です。
体重減少・右上腹部違和感・腫瘤触知を伴う場合があります。
検査:腹部超音波、造影CT・MRI、腫瘍マーカー(AFP、PIVKA-II)。


9. 胆石症・胆管炎

中高年女性に多く、胆汁の流れが滞り炎症を起こします。
右上腹部痛・発熱・黄疸が特徴で、放置すると敗血症を起こすこともあります。
検査:腹部超音波、CT、胆道系酵素(ALP・γ-GTP・ビリルビン)。


10. 非肝疾患による肝酵素上昇(筋疾患・心疾患など)

ASTは筋肉や心臓にも含まれるため、心筋梗塞や筋炎などでも上昇することがあります。
筋肉痛・胸痛・脱力感を伴う際には他臓器疾患も鑑別が必要です。
検査:CK、トロポニン、心電図、筋酵素。


■ 診断に必要な主な検査

検査名 内容・目的
血液検査(AST・ALT・γ-GTP・ALP・ビリルビン) 肝細胞・胆道系障害の評価
肝炎ウイルス検査(HBs抗原・HCV抗体) ウイルス性肝炎の確認
自己抗体検査(ANA・AMA) 自己免疫性肝疾患の鑑別
腹部超音波検査 脂肪肝・胆石・腫瘍・胆管拡張の確認
CT・MRI・MRCP 精密画像評価、腫瘍・胆管病変の確認
肝硬度測定(FibroScan) 肝線維化や脂肪化の程度を非侵襲的に評価
肝生検 原因不明の肝障害や自己免疫疾患の確定診断

■ まとめ

肝機能異常は一時的な飲酒や薬剤による軽度の変化も多い一方で、
慢性肝炎や脂肪肝、自己免疫性疾患など進行性の疾患が隠れていることもあります。

特に、

  • 数値が繰り返し高い

  • かゆみ・倦怠感・黄疸がある

  • 糖尿病や脂質異常を併発している
    といった場合は、早期に専門的検査を受けることが重要です。

当院では、腹部超音波検査・血液検査・ウイルス検査を組み合わせ、原因を丁寧に鑑別いたします。
生活習慣の見直しとともに、肝疾患の早期発見・進行予防に取り組むことが大切です。