小腸・大腸・肛門
感染性腸炎
1. 疾患の概要
感染性腸炎(infectious enterocolitis)とは、ウイルス・細菌・寄生虫などの病原体によって引き起こされる腸の炎症の総称です。多くは急性の経過をとり、腹痛、下痢、嘔吐、発熱などを主症状とします。一般的には数日から1週間程度で自然軽快することもありますが、脱水症や重篤な合併症を引き起こす場合もあるため、適切な対応が重要です。
発症の原因としては、不衛生な飲食物の摂取、ウイルス感染(特に冬季に流行するノロウイルスやロタウイルス)、海外渡航中の病原性大腸菌や寄生虫感染などが挙げられます。家庭内・施設内・学校などでの集団感染を引き起こすこともあり、感染経路には経口感染(糞口感染)、接触感染、飛沫感染などがあります。
日本では年間を通じて発症例がみられますが、夏季には細菌性腸炎、冬季にはウイルス性腸炎が多く報告されています。特に乳幼児や高齢者では重症化しやすく注意が必要です。
2. 主な症状
感染性腸炎の症状は病原体の種類によって多少異なりますが、以下のような共通した症状がみられます。
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下痢(水様性〜粘血便)
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腹痛(差し込むような痛みや鈍痛)
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嘔吐
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発熱
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倦怠感、脱水症状(口渇、尿量減少、意識の低下など)
細菌性腸炎(例:カンピロバクター、サルモネラ、腸管出血性大腸菌など)では血便や高熱、激しい腹痛を伴うことがあり、ウイルス性腸炎(ノロウイルス、ロタウイルスなど)では嘔吐が強く現れる傾向があります。
一方、潰瘍性大腸炎やクローン病、過敏性腸症候群など他の疾患と症状が似ているため、正確な診断が必要です。
3. 診断に必要な検査
感染性腸炎の診断は、症状の経過や周囲の感染状況を確認し、必要に応じて以下の検査を行います。
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問診・身体診察:発症時期、食事歴、周囲の感染者の有無、旅行歴などを確認。
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便検査:
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便培養:細菌性腸炎の原因菌を特定。
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ノロウイルス抗原検査:高齢者や幼児、特定の基礎疾患をお持ちの方以外は自費での検査になります。結果判明まで1,2日かかります。
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寄生虫検査:海外渡航歴がある場合に考慮。
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血液検査:白血球数、炎症反応(CRP)、脱水の程度などを確認。
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腹部画像検査(超音波・CT):重症例や合併症(穿孔、膿瘍など)が疑われる場合に行います。
一般的には軽症例では便検査を行わず、症状や流行状況から臨床診断されることも多いです。重症例や感染源特定が必要な場合に、より詳細な検査を行います。
4. 主な治療方法
感染性腸炎の治療は、病原体に応じた対症療法が中心となります。
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ウイルス性腸炎:
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抗ウイルス薬はなく、水分・電解質補給による脱水予防が基本。
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乳幼児や高齢者は経口補水液(ORS)などで早期の水分補給が重要です。
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細菌性腸炎:
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軽症では自然軽快することもありますが、症状が強い場合は抗菌薬の投与を行います(病原体により異なる)。
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抗菌薬が禁忌となる場合(腸管出血性大腸菌など)もあり、使用判断には注意が必要です。
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重症例や脱水が強い場合:
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点滴治療を行い、入院管理を検討することもあります。
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解熱薬や整腸剤の使用も症状に応じて適宜行います。
当院では、症状に応じた迅速な検査と治療を行い、必要に応じて入院可能な医療機関との連携も整えております。
5. 予防や生活上の注意点
感染性腸炎は日常生活の中での予防が非常に重要です。以下の点に注意することで感染のリスクを減らすことができます。
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手洗いの徹底:特に食前・トイレ後・外出後は石けんと流水でしっかり洗う。
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食品の加熱・保存管理:生肉や生卵は十分に加熱し、調理器具の使い分けや清潔な保存に注意。
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調理環境の衛生管理:まな板、包丁、台所用スポンジなどの消毒を心がける。
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外食や旅行時の注意:生水や生野菜、火の通っていない魚介類には注意。
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感染者との接触に注意:家族内感染を防ぐため、症状のある人の嘔吐物・便の処理は適切に行い、共有物の消毒も徹底。
また、ウイルス性腸炎の流行時期(冬季)には、集団感染の予防が特に重要です。感染が疑われる場合は、早めに受診し、周囲への感染拡大を防ぐ行動が求められます。
感染性腸炎は多くの場合、一過性の疾患で適切な対応により回復しますが、重症化や他人への感染を防ぐためにも早期対応が重要です。症状に心当たりがある場合は、無理をせず、医療機関への早めの受診をおすすめします。