十二指腸潰瘍

1. 疾患の概要

十二指腸潰瘍とは、胃のすぐ下に位置する「十二指腸」という消化管の粘膜が、胃酸や消化酵素の影響で深く傷ついた状態を指します。特に、十二指腸の最初の部分（球部）に多く見られます。

通常、胃や十二指腸の粘膜は強い酸から守られる防御機構を持っていますが、この「攻撃」と「防御」のバランスが崩れると、潰瘍が形成されます。

発症の主な原因は、以下の2つです：

• ヘリコバクター・ピロリ（H. pylori）感染

  　この細菌が長期間胃や十二指腸にとどまることで粘膜を傷つけ、潰瘍の発生リスクを高めます。

• NSAIDs（非ステロイド性抗炎症薬）やアスピリンの長期使用

  　これらの薬は粘膜の保護機能を低下させ、潰瘍を引き起こすことがあります。

その他、ストレス・喫煙・アルコールの多飲・不規則な生活習慣も悪化要因となります。

日本国内では、十二指腸潰瘍は比較的若年層にも多く見られる消化性潰瘍であり、胃潰瘍と比べて発症年齢がやや若い傾向があります。男女比では男性に多いとされます。

2. 主な症状

十二指腸潰瘍による主な症状は、以下の通りです：

• みぞおちの痛み（心窩部痛）

  特に空腹時や夜間に痛みが強くなるのが特徴です。

• 食後に一時的に痛みが軽減する

• 胃もたれや膨満感

• 吐き気、時に嘔吐

• 食欲不振

• 黒色便（出血がある場合）

• 吐血（まれに見られる）

潰瘍の進行度によっては、穿孔（腸壁に穴が開く）や出血といった重篤な合併症を引き起こすことがあり、救急対応が必要となることもあります。

症状は、胃潰瘍や機能性ディスペプシア、胆石症、膵疾患とも類似しており、正確な診断が重要です。

3. 診断に必要な検査

十二指腸潰瘍の診断には、以下の検査が行われます：

• 上部消化管内視鏡検査（胃カメラ）

  　直接十二指腸の粘膜を観察し、潰瘍の位置・大きさ・深さを評価します。悪性疾患との鑑別のため、**必要に応じて組織の一部を採取（生検）**します。

• ピロリ菌検査

  　当院ではまず血液検査によるピロリ菌抗体検査を用いて、感染の有無を調べます。陽性の場合は除菌を行い、尿素呼気試験にて効果判定を行います。

• 血液検査

  　出血に伴う貧血の有無や炎症反応を評価します。

• 腹部X線・腹部CT（必要時）

  　穿孔が疑われる場合や、他疾患との鑑別が必要な際に行われます。

初診時には、問診で症状や生活習慣、薬の服用状況などを詳しく確認し、必要に応じて検査を段階的に進めます。

4. 主な治療方法

十二指腸潰瘍の治療は、原因の除去と粘膜の治癒促進が基本です。

• 薬物療法

  　・胃酸分泌抑制薬（PPIやP-CAB）

  　　強力に胃酸を抑えることで潰瘍部の修復を促します。

  　・胃粘膜保護薬

  　　潰瘍部を保護し、治癒を助ける働きがあります。

  　・ピロリ菌感染がある場合は除菌療法

  　　抗生物質とPPIを組み合わせた1週間程度の治療です。再発防止に非常に有効です。

• 生活習慣の改善

  　食事の見直し、規則正しい生活、禁煙・節酒、ストレス管理などが治療効果を高めます。

• 外科的治療

  　穿孔や重度の出血を起こした場合には、手術が必要になることがあります。

治療期間は一般的に4〜8週間程度ですが、潰瘍の大きさや重症度、ピロリ菌の有無によって異なります。

当院では、内視鏡検査を用いた正確な診断と、最新の治療ガイドラインに基づく薬物療法や除菌治療、生活指導まで一貫して対応しております。

5. 予防や生活上の注意点

十二指腸潰瘍の予防・再発防止のために、以下の点にご留意ください：

• 規則正しい食生活（朝食を抜かず、よく噛んでゆっくり食べる）

• 過度なアルコールや香辛料の摂取を控える

• 喫煙を避ける（ニコチンは粘膜の血流を悪化させます）

• ストレスを溜めすぎない（運動や趣味を活用）

• NSAIDsやアスピリンを常用する方は、医師と相談のうえ胃薬を併用

• ピロリ菌の除菌を済ませておく

再発のリスクがあるため、定期的な内視鏡検査や生活習慣の見直しを継続的に行うことが大切です。

十二指腸潰瘍は、正しい診断と治療を行えば比較的短期間で改善する疾患です。しかし、放置すると重篤な合併症を引き起こすこともあるため、胃痛や消化不良などの症状が続く場合は、早めの受診をおすすめします。

当院では、丁寧な問診と精密な検査をもとに、患者さま一人ひとりに合わせた治療を提供しております。おなかの不調が気になる際は、どうぞお気軽にご相談ください。