胃・十二指腸
慢性胃炎
1. 疾患の概要
慢性胃炎とは、胃の粘膜に炎症が長期間(通常は6か月以上)持続する状態を指します。炎症が続くことで、胃の粘膜が菲薄化し、胃酸や消化酵素に対する防御力が低下し、消化不良や胃痛などの症状が生じやすくなります。
慢性胃炎の最も一般的な原因は、ヘリコバクター・ピロリ(H. pylori)菌の持続感染です。その他にも、長期間の非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の使用、過度のアルコール摂取や喫煙、加齢による粘膜の変性、自己免疫性疾患などが発症要因となります。
日本では特に、ピロリ菌感染の既往がある中高年層に多く、50歳以上の年代に高い罹患率がみられます。ピロリ菌の感染率自体は若年層では低下傾向にありますが、既感染者の管理と治療が重要です。
2. 主な症状
慢性胃炎は、自覚症状が乏しいことも多いですが、次のような症状が現れることがあります。
-
胃もたれ
-
食後の膨満感
-
胃痛(特に空腹時)
-
食欲不振
-
吐き気や悪心
-
胸やけ
炎症が進行すると、粘膜の萎縮が強くなり、萎縮性胃炎と呼ばれる状態になります。さらに、**腸上皮化生(ちょうじょうひかせい)**と呼ばれる変化が起こると、胃がんのリスクも高まるため、定期的な内視鏡検査による評価が大切です。
なお、これらの症状は機能性ディスペプシアや胃潰瘍、胃がんなど他の疾患とも重なりやすいため、正確な診断が重要です。
3. 診断に必要な検査
慢性胃炎の診断には、以下のような検査を行います。
-
上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)
胃粘膜の状態を直接観察し、炎症、萎縮、発赤、びらん、腸上皮化生の有無などを確認します。必要に応じて組織の一部を採取し、病理検査を行います。
-
ヘリコバクター・ピロリ菌検査
ピロリ菌の感染を確認するために、当院では血液検査によるピロリ菌抗体検査を用います。ピロリ菌除菌後の検査には尿素呼気試験を行います。
-
血液検査
貧血の有無や、胃粘膜の萎縮を示すマーカー(ペプシノゲン検査)を確認する場合があります。
診察の流れとしては、まず症状や既往歴を伺い、必要に応じて内視鏡検査とピロリ菌検査を組み合わせて行います。これにより、慢性胃炎の有無や進行度、原因を総合的に評価します。
4. 主な治療方法
治療は、原因に応じて次のように行います。
-
ピロリ菌感染が確認された場合
除菌治療(抗生物質と胃酸抑制薬の組み合わせ)を行います。約1週間の服薬で除菌が完了することが多く、除菌後は炎症の進行を抑え、胃がんリスクを下げることが期待されます。
-
薬物療法
胃酸の分泌を抑える「プロトンポンプ阻害薬(PPI)」や「P-CAB」、胃粘膜を保護する薬剤などを用いて、症状の軽減と粘膜の修復を促します。
-
生活習慣の見直し
食事の見直し(脂っこいものや刺激物の制限)、禁煙、節酒、ストレス管理、規則正しい生活などが、治療効果を高める鍵となります。
当院では、内視鏡による精密検査に加え、ピロリ菌検査と除菌治療、胃薬の処方や生活指導を一貫して行っております。患者さまの症状や背景に応じた個別対応を重視しております。
5. 予防や生活上の注意点
慢性胃炎を予防・再発防止するためには、以下の生活習慣が大切です。
-
規則正しい食事(朝・昼・夕をバランスよく)
-
暴飲暴食、刺激物(香辛料、アルコールなど)の制限
-
禁煙と適度な運動
-
ストレスを溜めない生活習慣(趣味や休息の時間を大切に)
-
定期的な内視鏡検査による粘膜のチェック
特にピロリ菌感染がある方は、除菌治療を早期に受けることが予防につながります。また、胃がんのリスクが高くなる前に早期発見・対応することが非常に重要です。
慢性胃炎は放置しても急性症状が現れにくい反面、将来的な胃がんなどの重大な病気のリスクにつながる可能性があります。当院では、丁寧な問診と精密検査をもとに、症状の有無にかかわらず適切なケアを行っております。気になる症状がある方や、検診で異常を指摘された方は、ぜひ一度ご相談ください。