症状
左季肋部痛(左上腹部の痛み)
■ 左季肋部痛を起こす主な鑑別疾患(全10疾患)
1. 脾腫(脾臓の腫大)
感染症や血液疾患などにより脾臓が腫大し、左季肋部に鈍痛や圧迫感を生じます。
伝染性単核球症や肝硬変、白血病などで見られ、中〜高齢者に多いです。
【検査】腹部超音波、造影CT、血液検査(末梢血、LDH、肝機能)。
2. 脾梗塞
脾臓の血流が途絶え、急性の左季肋部痛が出現します。
心房細動や血栓性疾患の既往がある高齢者に多く、発熱・倦怠感を伴うことも。
【検査】造影CT、血液検査(Dダイマー、CRP)、心電図。
3. 過敏性腸症候群(IBS)
左側結腸にガスがたまりやすく、左季肋部の張り感や痛みとして自覚されることがあります。
20〜40代女性に多く、便通異常(便秘・下痢)と関連します。
【検査】大腸内視鏡(除外診断)、便検査、腹部X線。
4. 大腸憩室炎(特にS状結腸)
左下腹〜左季肋部にかけての持続痛・圧痛があり、発熱や排便異常を伴います。
中高年に多く、便秘や食物繊維不足との関連が指摘されています。
【検査】腹部CT、血液検査(白血球、CRP)、大腸内視鏡(回復期に)。
5. 胃潰瘍(胃体部・噴門部など)
胃の上部に潰瘍ができると、左季肋部寄りに痛みを感じることがあります。
ピロリ菌感染やNSAIDsの使用歴がある中高年に多くみられます。
【検査】胃内視鏡、ピロリ菌検査、便潜血検査。
6. 膵炎(左側に限局する例)
膵臓の炎症が左側に限局する場合、左季肋部〜背部への放散痛を生じます。
アルコール多飲歴や胆石がある中高年男性に多く、悪心・嘔吐を伴います。
【検査】血液検査(アミラーゼ・リパーゼ)、腹部CT、腹部超音波。
7. 左腎結石・腎盂腎炎
腎臓や尿管の異常が左季肋部〜側腹部に鋭い痛みとして現れます。
血尿や排尿時の痛み、発熱を伴うことが多く、30〜50代男性にやや多くみられます。
【検査】尿検査、非造影CT、腹部超音波、尿培養。
8. 胸膜炎・肺炎
左肺下部の炎症が横隔膜や胸膜を刺激し、左季肋部の痛みとして感じられることがあります。
発熱、咳、呼吸時の胸痛を伴い、高齢者では症状が曖昧なこともあります。
【検査】胸部X線、胸部CT、血液検査(白血球・CRP)。
9. 脾損傷(外傷性)
打撲や転倒により脾臓が損傷され、左季肋部痛や腹腔内出血を起こすことがあります。
スポーツや事故による外傷歴のある若年者〜中年層に注意が必要です。
【検査】造影CT、腹部エコー、血圧・ショック指数の評価。
10. 筋・肋骨由来の痛み(肋間神経痛、筋膜炎など)
動作や体位変換により誘発される局所的な痛みで、肋骨周囲の圧痛が見られます。
無理な姿勢やスポーツ、ストレスが原因で、全年齢に発症します。
【検査】身体診察、必要に応じてX線、超音波、MRI。
■ 補足
左季肋部痛は、脾臓・大腸・胃・腎臓・膵臓・肺・筋骨格など、多くの臓器の病変で生じる可能性があります。**痛みの性質や随伴症状(発熱、血便、呼吸苦など)**を丁寧に評価し、部位に応じた適切な画像・血液検査を組み合わせることが、的確な診断に繋がります。