胃・十二指腸
ダンピング症候群
1. 疾患の概要
ダンピング症候群(Dumping syndrome)とは、胃の手術後などにみられる後遺症の一つで、食べ物が急速に胃から小腸へ移動することで起こる一連の症状群を指します。主に、胃の全摘出や一部切除、バイパス術などの胃の解剖構造が変化した方にみられる合併症です。
食後に突然めまいや動悸、下痢、腹痛などの症状が現れるのが特徴で、大きく分けて「早期型ダンピング症候群」と「後期型ダンピング症候群」の2種類があります。
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早期型:食後30分以内に起こり、体液の急激な移動による症状が中心。
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後期型:食後2~3時間後に起こり、血糖値の急激な変動が関与。
発症の原因
ダンピング症候群は、以下のような状況で発症しやすくなります。
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胃の手術後(胃全摘、幽門側胃切除、バイパス術 など)
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幽門機能の喪失や消化管再建方法による急速な排出
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早食いや糖質の多い食事摂取
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胃内容物の消化・吸収異常
胃が本来持っていた“少しずつ小腸へ送り出す”調節機能が失われることで、未消化の内容物が一気に小腸に流入し、血管から水分が移動して低血圧や腹部症状を引き起こします。
日本国内における発症の傾向
ダンピング症候群は胃手術後の約20〜40%に発症するとされ、胃がん術後の患者さんでは特に注意が必要です。胃全摘術を受けた方では、ほぼ半数に何らかのダンピング様症状がみられるという報告もあります。年齢や性別を問わず発症する可能性がありますが、高齢者や術後栄養状態が不良な方では症状が重くなる傾向があります。
2. 主な症状
【早期型ダンピング症候群】(食後30分以内)
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腹痛、下痢、膨満感
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動悸、発汗、顔面紅潮
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めまい、倦怠感、吐き気
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お腹が「チャポチャポ」鳴る水様音
【後期型ダンピング症候群】(食後2〜3時間後)
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空腹感、冷や汗
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手の震え、動悸
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眠気、集中力の低下
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低血糖による意識消失(重症例)
いずれも、食事と関連して反復的に起こるのが特徴です。他の消化器疾患と症状が重なるため、適切な診断が重要です。
3. 診断に必要な検査
ダンピング症候群の診断は、主に症状の出現時期と特徴的な経過から行われます。必要に応じて、以下の検査を組み合わせて実施します。
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問診・食事歴の確認:発症時期、手術歴、症状との関連性を聴取
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75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT):後期型の低血糖症状を評価
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上部消化管内視鏡検査(胃カメラ):再建胃や吻合部の形態異常・残胃の確認
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腹部超音波検査・CT検査:構造異常や合併症の除外目的
症状が日常生活に支障をきたす場合は、内科的・外科的治療方針の判断のために、多角的な評価が必要です。
4. 主な治療方法
ダンピング症候群の治療は、生活習慣の見直しと薬物療法が中心です。
【生活指導・食事療法】
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少量ずつ、ゆっくり食べる
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高糖質の食品(甘い飲み物・お菓子など)を控える
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食後すぐに横にならず、30分は上体を起こす
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食物繊維やたんぱく質を意識的に摂取する
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食後の水分摂取は控えめにする
【薬物療法】
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α-グルコシダーゼ阻害薬(ボグリボース等):後期型の低血糖予防に有効
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制吐薬、消化管運動調整薬:早期型の不快症状軽減に用います
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PPIやH2ブロッカー:再建胃の粘膜保護目的
【重症例の場合】
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栄養補助(経腸栄養、静脈栄養など)
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再手術(吻合部修正など)は極めてまれなケースに限定
泉胃腸科外科医院では、個々の症状と生活背景に応じたオーダーメイドの生活指導と薬物療法を提供しています。
5. 予防や生活上の注意点
【再発予防・症状軽減のために】
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胃切除後は早期からの栄養指導が重要
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食事内容を記録する「食事日記」が症状管理に有効
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高齢者や術後合併症のある方では、専門的な栄養士の指導を受けることを推奨
【日常生活の注意点】
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飲酒や刺激物は控える
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精神的ストレスや過労は症状を悪化させることがあるため、心身の安定を図ることも大切です
おわりに
ダンピング症候群は、胃手術後に比較的よくみられる合併症であり、適切な診断と生活指導により大きく改善が見込める疾患です。
食後の不快感や低血糖様症状にお悩みの方は、ぜひ当院へご相談ください。
泉胃腸科外科医院では、内視鏡による術後の状態確認や、管理栄養士と連携した食事・生活指導、必要に応じた薬物治療を総合的に提供しております。患者さまの生活の質を守るため、専門的な立場からサポートいたします。