小腸・大腸・肛門
クローン病(CD)
1. 疾患の概要
クローン病とは、口腔から肛門までの消化管すべてに炎症を引き起こす可能性のある、慢性の炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease:IBD)の一つです。特に小腸の終末回腸や大腸に好発し、粘膜の深層にまで及ぶ「全層性炎症」を特徴とします。
原因は完全には解明されていませんが、遺伝的要因、免疫異常、腸内細菌の関与、環境要因(喫煙など)が複雑に関係して発症すると考えられています。日本においては、人口10万人あたり約60~70人と報告されており、20代〜30代の若年層に多く発症しますが、近年では中高年での発症も増加傾向にあります。男性にやや多い傾向があるのも特徴です。
2. 主な症状
クローン病の症状は多岐にわたり、以下のような腸管症状が中心となります:
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腹痛(特に右下腹部)
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慢性的な下痢
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血便(進行時や大腸病変時に)
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発熱
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体重減少・栄養障害
病変が深部まで進行すると、腸に狭窄(せまくなる)、瘻孔(腸管と他の臓器や皮膚がつながるトンネル)が形成されることもあります。また、腸外症状として、関節炎、皮膚疾患(結節性紅斑など)、ぶどう膜炎などを伴うこともあります。
潰瘍性大腸炎との鑑別が重要ですが、クローン病は小腸にも病変が見られ、非連続性(skip lesion)や全層性の炎症、瘻孔形成が見られる点で区別されます。
3. 診断に必要な検査
クローン病の診断には複数の検査を組み合わせて行います。
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血液検査:炎症反応(CRP、白血球増加)や貧血、栄養状態の評価。
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内視鏡検査(大腸カメラ、小腸内視鏡など):粘膜のびらん・潰瘍、縦走潰瘍や敷石像などの特徴的所見を観察。
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画像検査(腹部CT/MRI):小腸や深部病変の評価。腸管壁の肥厚や瘻孔・膿瘍の有無を確認。
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小腸造影検査やカプセル内視鏡:小腸全体の評価に有用です。
診断は、症状、内視鏡所見、組織診、画像診断を総合的に判断して確定されます。
4. 主な治療方法
クローン病は根治が難しい疾患ですが、症状をコントロールし寛解を維持することが治療の目的となります。
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薬物療法:
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5-ASA製剤:軽症例に使用。
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ステロイド(副腎皮質ホルモン):中等症~重症例に対して導入療法として。
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免疫調節薬(アザチオプリン、6-MPなど):再燃予防やステロイド離脱目的。
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生物学的製剤(抗TNFα抗体、抗IL-12/23抗体など):重症例や再発例に対して極めて有効です。
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栄養療法:
小腸病変が強い場合や成長期の患者には、経腸栄養療法(成分栄養剤など)も有効です。 -
手術療法:
狭窄や瘻孔、膿瘍などの合併症がある場合は手術が必要になることもあります。ただし、再発が多いため、必要最小限にとどめます。
当院では、専門的な内視鏡検査や画像診断をもとにした早期診断、最新の生物学的製剤の導入、生活指導を含めた継続的な外来フォローを行っております。
5. 予防や生活上の注意点
クローン病は完全な予防が難しい疾患ですが、以下の生活習慣の見直しが症状のコントロールに有効とされています:
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禁煙:喫煙は発症リスクおよび再燃率を高めるとされています。
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栄養バランスの取れた食事:消化の良い食品を心がけ、脂質・刺激物の過剰摂取は避けましょう。
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ストレスの管理:過労や精神的ストレスも再燃の要因となることがあります。
定期的な通院による病勢の評価、血液検査や内視鏡検査による再燃の早期発見が、長期的な予後を良好に保つために重要です。
ご希望に応じて、院内での説明資料や動画用の原稿などへの転用も可能ですので、お申し付けください。必要であれば、患者向けリーフレット形式にも編集いたします。