口腔内・のど・食道
食道カンジダ症
1. 疾患の概要
食道カンジダ症とは、カンジダ属の真菌(カビの一種)が食道粘膜に感染して炎症を引き起こす病気です。健康な人の口腔や消化管にも存在する常在菌の一種である「カンジダ・アルビカンス」が、何らかの原因により異常増殖し、病的な感染状態になることで発症します。
通常、免疫機能が正常に働いていれば、カンジダは悪さをしません。しかし、免疫力の低下や特定の薬剤使用、栄養状態の不良などがあると、カンジダが異常に増殖し、粘膜に白苔(はくたい)や潰瘍を形成して食道炎症を引き起こすことがあります。
発症の主な原因やリスク因子は以下の通りです:
-
ステロイドや免疫抑制薬の使用
-
抗菌薬の長期使用
-
がん・糖尿病・HIV感染などによる免疫低下
-
高齢や低栄養状態
-
食道通過障害(アカラシアなど)
日本では、高齢化や免疫抑制剤の使用増加に伴い、とくに高齢者や慢性疾患を有する方での発症が増加傾向にあります。性別差はほとんどなく、誰にでも起こり得る病気です。
2. 主な症状
食道カンジダ症によって引き起こされる症状には、以下のようなものがあります:
-
嚥下困難(飲み込みづらさ)
-
嚥下時の痛み(つばを飲むだけで痛いことも)
-
胸のつかえ感、胸やけ
-
食欲低下、体重減少
-
口腔内のカンジダ感染(白い苔状の付着物)を伴うことも
症状は軽度のものから、食事を摂れなくなるほど重度なものまでさまざまです。また、無症状で偶然、内視鏡検査で発見されることも少なくありません。
症状が逆流性食道炎や食道がん、アカラシアなどと類似することもあり、正確な診断のためには検査が必要です。
3. 診断に必要な検査
食道カンジダ症の診断には、内視鏡検査を中心に、症状や全身状態を考慮して行います。
-
上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)
最も重要な検査で、食道粘膜に白苔状の付着物(白斑)やびらん、潰瘍などの病変を直接確認します。白苔は擦ると剥がれ落ち、下にびらん面が露出することが特徴です。
-
組織生検・真菌染色
内視鏡時に採取した粘膜組織を顕微鏡で観察し、真菌(カンジダ)の存在を確認します。パス染色やグロコット染色などを使用します。
-
血液検査
白血球数、CRP(炎症の程度)、免疫状態(HIV検査や糖尿病の有無)を確認します。
-
胸部X線・CT検査(必要時)
重度例や誤嚥性肺炎の合併が疑われる場合に実施されます。
初診では、嚥下困難や胸部の違和感がある方に対し、まず内視鏡検査を行い、必要に応じて真菌検査と血液検査を併用することで確定診断に至ります。
4. 主な治療方法
治療は、抗真菌薬(抗カンジダ薬)の内服または点滴が中心です。
-
薬物療法
・フルコナゾール(内服・点滴):第一選択薬。軽度〜中等度の症例に有効
・イトラコナゾール、ボリコナゾールなど:効果が不十分な場合や重症例で使用
・外用薬(口腔カンジダ併発時):ミコナゾールゲルなどを併用する場合もあります
治療期間は一般的に1〜2週間程度で、重症例や免疫低下の強い方では数週間以上の投与が必要になることもあります。
-
基礎疾患のコントロール
糖尿病やHIV感染、がんなどのコントロールが不十分な場合、再発しやすくなるため、全身状態の管理が重要です。
-
生活習慣への指導
栄養状態の改善、服薬内容の見直し、口腔ケアの徹底なども並行して行います。
当院では、内視鏡による迅速な診断、適切な抗真菌薬の処方、再発予防のための生活指導まで一貫した診療を行っております。
5. 予防や生活上の注意点
食道カンジダ症の発症や再発を防ぐためには、以下のような点に注意が必要です:
-
バランスの取れた食生活と十分な栄養摂取
-
過度な疲労やストレスの軽減、十分な睡眠の確保
-
口腔内を清潔に保つ(歯磨き、義歯の洗浄など)
-
ステロイドや抗生物質を使用している方は、自己判断で中断せず医師に相談
-
免疫抑制状態がある方は、定期的な内視鏡検査や症状の早期申告を心がける
特に高齢者や慢性疾患をお持ちの方は、ちょっとした嚥下のしづらさや胸の違和感を軽視せず、早めに医師へ相談することが重要です。
食道カンジダ症は、適切な診断と治療により、ほとんどのケースで完治が可能な疾患です。
しかし、再発や重症化を防ぐには、原因となる背景因子の把握と、日常生活の見直しも欠かせません。
当院では、内視鏡検査を含む迅速な診断体制と、患者さま一人ひとりに合わせた丁寧な治療と生活指導を行っております。気になる症状がある場合は、お早めにご相談ください。