胃・十二指腸
萎縮性胃炎
1. 疾患の概要
萎縮性胃炎とは、胃の粘膜が長期間の炎症によって薄くなり、胃液や胃酸を分泌する腺組織が失われていく病気です。慢性胃炎の進行した状態であり、特にヘリコバクター・ピロリ(H. pylori)菌の持続感染が主な原因とされています。
健康な胃粘膜には胃酸を分泌して消化を助ける細胞が存在しますが、炎症が長引くとこれらの細胞が減少し、胃の防御機能も低下していきます。その結果、食物の消化がうまくいかなくなったり、胃がんへと進行する可能性が高まります。
日本では、中高年を中心に高い頻度で見られる疾患です。特に60歳以上の年代では、ピロリ菌感染歴のある方の多くが何らかの萎縮を有しており、日本人に多い胃がんの背景疾患の一つとも言われています。男女差は比較的少ないものの、男性の方がやや多く発症する傾向があります。
2. 主な症状
萎縮性胃炎は、無症状で経過することも多い病気です。しかし、次のような症状が見られる場合もあります。
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食後の胃もたれや不快感
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胃の張り(腹部膨満感)
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食欲不振
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胃の痛み(特に空腹時)
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口臭
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鉄欠乏性貧血による全身倦怠感やめまい
症状は一見軽微に見えても、胃粘膜の萎縮が進んでいる場合があります。また、胃酸の分泌が低下することで、**ピロリ菌の住みやすい環境が持続し、さらなる粘膜障害や腸上皮化生(胃の粘膜が腸のような性質に変化する現象)**が進行することもあります。
他の胃疾患、特に機能性ディスペプシアや胃潰瘍、胃がんと症状が重なるため、的確な診断が重要です。
3. 診断に必要な検査
萎縮性胃炎の診断には、以下の検査を組み合わせて行います。
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上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)
最も重要な検査で、胃の粘膜の色調、血管透見像、ヒダの萎縮状態などを直接観察します。萎縮の広がり具合は「京都分類」や「O-LG分類」などで評価されます。
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ピロリ菌検査
萎縮性胃炎の大半にピロリ菌感染が関与しているため、尿素呼気試験や便中抗原検査、血清抗体検査を用いて感染の有無を調べます。当院ではまず血液検査によるピロリ菌抗体を測定します。
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血液検査
萎縮が進むと胃酸分泌が低下し、鉄分やビタミンB12の吸収障害が起こることがあります。これにより貧血や悪性貧血の兆候が見られることがあります。
診断の流れとしては、まず問診で症状や既往歴を確認し、内視鏡検査とピロリ菌検査を行うことで総合的に判断します。
4. 主な治療方法
萎縮性胃炎自体に対する特効薬はありませんが、進行の抑制や関連症状の軽減を目的に、以下の治療が行われます。
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ピロリ菌の除菌治療
感染が確認された場合、抗生物質と胃酸抑制薬の併用による除菌治療を行います。これにより炎症の進行を抑え、将来的な胃がんリスクを大幅に下げることができます。
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薬物療法
胃の不快感や消化不良などの症状がある場合には、胃粘膜を保護する薬や消化酵素製剤、漢方薬などを症状に応じて処方します。
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生活習慣の改善
暴飲暴食の回避、香辛料や脂肪分の摂取制限、禁煙、節酒、ストレス管理などが推奨されます。
当院では、内視鏡検査による診断とリスク評価に加え、ピロリ菌の除菌治療や、症状に応じた薬物療法・生活指導を行っております。患者さま一人ひとりの状態に合わせたオーダーメイドの対応を心がけています。
5. 予防や生活上の注意点
萎縮性胃炎は、早期発見・早期対応が予防の鍵です。以下の点に注意しましょう。
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定期的な内視鏡検査(特に50歳以上の方)
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ピロリ菌感染がある方は、速やかな除菌治療
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バランスの良い食事と規則正しい生活
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過度なアルコール・喫煙の習慣を避ける
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ストレスの軽減と十分な睡眠
萎縮性胃炎は進行すると胃がんリスクが高まるため、定期的なモニタリングと生活習慣の見直しが非常に重要です。
胃の調子が気になる方、検診で「胃の萎縮を指摘された」方は、ぜひ一度ご相談ください。当院では、丁寧な内視鏡診断と予防的アプローチにより、将来のリスクを最小限に抑えるサポートを行っております。