胃・十二指腸

機能性ディスペプシア

1. 疾患の概要

機能性ディスペプシア(Functional Dyspepsia:FD)とは、胃のあたりの不快感や痛みといった消化器症状がありながらも、内視鏡や血液検査などの検査で明らかな異常が見つからない状態を指します。

「ディスペプシア」とは、消化不良という意味であり、機能性ディスペプシアは「胃や十二指腸などの消化管の機能異常によって症状が出るが、器質的(構造的)異常が認められない」ことが特徴です。

発症の背景には、以下のような複数の要因が関係していると考えられています:

  • 胃の運動機能の低下(食べ物を胃から腸へ送る力の弱さ)

  • 胃の拡張性の低下(食後に胃がうまく広がらない)

  • 感覚過敏(胃の中のわずかな刺激でも強く感じる)

  • ストレスや自律神経の乱れ

  • 食生活の乱れや過労

  • ヘリコバクター・ピロリ感染との関係も一部で指摘されています

日本では、人口の約10〜15%が機能性ディスペプシアに該当するとされており、年齢や性別に関係なく発症しますが、特に20〜50代の働き盛り世代の女性にやや多い傾向があります。


2. 主な症状

機能性ディスペプシアの症状は大きく2つのタイプに分類されます:

  1. 食後愁訴症候群(PDS型)

     - 食後の胃もたれ

     - すぐに満腹になる(早期膨満感)

     - 食事が胃に停滞しているような感覚

  2. 心窩部痛症候群(EPS型)

     - みぞおちの痛みや灼熱感

     - 空腹時や夜間に痛みが強くなることもある

これらの症状は、日常生活に支障をきたすほど持続的に現れることもあり、精神的なストレスや睡眠不足などによって悪化することがあります。

症状が似ている疾患としては、胃潰瘍・逆流性食道炎・胃がんなどがありますが、それらの疾患は検査によって明確な異常が確認されるのに対し、機能性ディスペプシアでは検査で明確な異常が認められないという点が重要な違いです。


3. 診断に必要な検査

機能性ディスペプシアの診断は、他の病気を除外することで確定される「除外診断」です。そのため、次のような検査が必要です:

  • 上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)

     胃潰瘍・胃がん・逆流性食道炎などを除外するために最も重要な検査です。粘膜のびらんや腫瘍などが見られないかを直接確認します。

  • 血液検査

     炎症反応、貧血、肝機能・腎機能、腫瘍マーカーなどを調べ、全身状態や他の疾患の可能性を評価します。

  • 腹部超音波検査(腹部エコー)

     胆のうや肝臓、すい臓など、胃以外の臓器に異常がないかを確認するために行います。胆石や腫瘍の有無を評価する上でも重要です。

  • 腹部CT検査

     腫瘍や炎症などの構造的異常をより詳細に確認でき、必要に応じて実施します。胃以外の消化管や膵臓・腎臓などの精査にも有効です。

  • 下部消化管内視鏡検査(大腸カメラ)

     腹部の膨満感や便通異常を伴う場合には、大腸の病気(大腸がん・炎症性腸疾患など)を除外するために実施されることがあります。

このように、診断のプロセスでは、胃や腸の構造的異常がないことを確認したうえで、「機能性」と判断されます。問診では、症状の種類や持続期間、食事・ストレスとの関連などを丁寧に伺います。診断の流れは、まず丁寧な問診と身体診察を行い、症状のパターンを把握したうえで、必要な検査を実施して他の疾患を除外し、最終的にFDと診断します。


4. 主な治療方法

機能性ディスペプシアの治療は、薬物療法と生活習慣の改善を組み合わせて行います。治療期間は個人差がありますが、一般的には数週間〜数か月で症状の軽減が期待されます。

  • 薬物療法

     ・消化管運動改善薬(アコチアミドなど):胃の動きを整える

     ・酸分泌抑制薬(PPIやP-CAB):胃酸による刺激を軽減

     ・漢方薬(六君子湯など):体質改善に有効な場合もあり

     ・抗不安薬や抗うつ薬(必要に応じて):過敏性やストレスに対処

  • 生活習慣の見直し

     ・食事は規則正しく、よく噛んでゆっくり食べる

     ・腹八分目を意識し、刺激物や脂っこい食事は控えめに

     ・禁煙・節酒を心がける

     ・適度な運動、十分な睡眠、ストレスの軽減

当院では、内視鏡検査を通じた正確な診断のもと、症状タイプに合わせた薬の処方、生活指導、必要に応じて心理的サポートも行っております。再発を防ぐためにも、個々の状態に応じた継続的な対応が大切です。


5. 予防や生活上の注意点

機能性ディスペプシアを予防・改善するためには、日常生活の中で次のようなポイントを意識することが大切です:

  • 毎日の食事を見直す

     暴飲暴食を避け、刺激の強い食品や冷たい飲食物は控える

  • ストレスのコントロール

     趣味の時間や軽い運動でリフレッシュすることが症状の軽減につながります

  • 睡眠と休息をしっかり取る

     疲労の蓄積は自律神経の乱れを招き、胃の機能にも影響します

  • 服薬やサプリメントの見直し

     長期間の薬剤使用が影響することもあるため、医師に相談しましょう


機能性ディスペプシアは、明確な原因が見つからない一方で、確かな診断と治療、生活の工夫によって改善が期待できる疾患です。胃の不調が長引いている方や、検査で異常がないのに症状がつらいという方は、我慢せず一度ご相談ください。

当院では、医学的根拠に基づいた丁寧な診療と、患者さまのライフスタイルに寄り添った個別対応を大切にしております。お一人で悩まず、安心してご来院ください。