症状
血便
【血便を起こす病気とその鑑別】
血便とは、肛門から出血を伴って排出される便を指し、鮮血便(赤い血)と暗赤色便に大別されます。出血の部位や性状によって原因が異なり、軽症の痔出血から、生命に関わる消化管出血まで幅広い病態が含まれます。
1. 痔核(いぼ痔)・裂肛(切れ痔)
最も頻度の高い血便の原因です。**排便時の出血(鮮血)**が特徴で、便の表面に血が付着する形をとります。
痔核は中年以降の男女に多く、裂肛は便秘傾向の若年女性に多い傾向があります。
検査:肛門診、直腸診、肛門鏡検査。
2. 大腸憩室出血
大腸の壁の一部が袋状に突出(憩室化)し、そこから突然出血する病態です。
高齢者や便秘・肥満・高血圧の方に多く、痛みを伴わない大量出血が特徴です。
検査:大腸内視鏡検査、腹部CT(造影CT)。
3. 大腸がん・直腸がん
持続的な血便や下痢・便秘の繰り返し、体重減少を伴う場合は悪性腫瘍を疑います。
50歳以降で発症率が上昇し、早期発見には定期的な検査が重要です。
検査:大腸内視鏡検査(生検を含む)、便潜血検査、CT。
4. 潰瘍性大腸炎
若年〜中年に多い自己免疫性の炎症性腸疾患で、粘血便・下痢・腹痛を繰り返します。
慢性経過をとることが多く、長期的には大腸がんのリスク上昇を伴います。
検査:大腸内視鏡(粘膜生検)、便中カルプロテクチン、血液検査(CRP)。
5. 感染性腸炎(細菌性赤痢、サルモネラ、カンピロバクターなど)
発熱・下痢・腹痛・血便を呈し、旅行や食事歴から感染を疑います。
若年〜中年に多く、集団発生することもあります。
検査:便培養検査、便抗原検査、血液検査。
6. 虚血性腸炎
一過性の腸への血流低下により炎症・出血を起こす疾患で、中高年女性に多い傾向があります。
突然の腹痛の後に血便が出現し、自然軽快する例もありますが、再発や重症化例もあります。
検査:大腸内視鏡、腹部CT、血液検査(炎症反応)。
7. クローン病
若年男性に多く、消化管全域に炎症・潰瘍を起こす疾患です。
血便、下痢、発熱、体重減少を伴い、再発を繰り返す慢性疾患です。
検査:大腸内視鏡(小腸病変も確認)、MRIエンテログラフィー、血液検査。
8. 痔瘻・肛門周囲膿瘍
肛門腺の感染が原因で、膿や血液を含んだ便が出ることがあります。
男性に多く、発熱や排便時痛、肛門周囲の腫れを伴うことがあります。
検査:視診、触診、肛門エコー、MRI(肛門周囲の瘻孔確認)。
9. 小腸出血(血管奇形・小腸腫瘍)
上部や大腸に異常がなく、原因不明の血便や鉄欠乏性貧血を呈する場合に疑います。
高齢者や抗凝固薬服用者に多く、潜在的出血として見逃されやすい病態です。
検査:カプセル内視鏡、小腸内視鏡、造影CT。
10. 放射線性腸炎
骨盤部への放射線治療の後に発症することがあります。
血便や下痢、腹痛を慢性的に繰り返すことがあり、出血源が複数に及ぶ場合もあります。
検査:大腸内視鏡(粘膜変化の観察)、血液検査。
■ 診断に必要な検査一覧
| 検査 | 内容 |
|---|---|
| 大腸内視鏡検査 | 最も重要な検査。出血部位の特定と治療(止血)も可能。 |
| 腹部CT(造影含む) | 憩室出血・虚血性腸炎・腫瘍・炎症の評価。 |
| 便検査 | 感染性腸炎や便潜血の確認。 |
| 血液検査 | 貧血、炎症反応、肝腎機能などの評価。 |
| 小腸カプセル内視鏡 | 原因不明出血時に小腸病変を確認。 |
| 肛門診・肛門鏡 | 痔核・裂肛など肛門疾患の確認。 |
■ まとめ
血便は出血部位が肛門に近いほど鮮やかな赤色になり、上部ほど暗色や黒色に近づく傾向があります。
多くは良性疾患によるものですが、大腸がんや炎症性腸疾患などの重篤な病気が背景にある場合も少なくありません。
出血が繰り返す、便の色が黒っぽい、体重減少や貧血を伴う場合は、早めの内視鏡検査を受けることが重要です。
当院では、鎮静下での大腸カメラ検査を行い、出血源の特定と治療を同時に実施しております。
血便を認めた際は、我慢せず早期にご相談ください。