口腔内・のど・食道
食道裂孔ヘルニア
1. 疾患の概要
食道裂孔ヘルニアとは、胃の一部が本来の位置である腹腔から胸腔へとはみ出してしまう状態を指します。横隔膜には「食道裂孔(れっこう)」という、食道が通る小さな穴がありますが、何らかの理由でこの部分が緩み、胃の上部が食道側へ押し上げられてしまうのがこの病気です。
大きく以下の2タイプに分類されます:
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滑脱型(かつだつがた):胃の噴門部(胃の入り口)が食道裂孔から胸腔へとスライドして移動する。最も多いタイプで、胃食道逆流症(GERD)を合併しやすい。
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傍食道型(ぼうしょくどうがた):胃の一部が食道の隣を通って胸腔に入り込む。まれだが、胃の捻じれや血流障害などの緊急性を伴う可能性がある。
食道裂孔ヘルニアの主な原因は以下の通りです:
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加齢による横隔膜周囲の筋力低下
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肥満や妊娠などによる腹圧の上昇
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慢性的な咳、便秘、重い物を持つなどの負荷
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遺伝的な体質や解剖学的構造の違い
日本では、加齢に伴い増加しており、50歳以上の中高年で比較的多く認められます。性差はあまりありませんが、肥満傾向のある方やGERDを伴う方に多くみられる傾向があります。
2. 主な症状
食道裂孔ヘルニアによる症状は、胃酸や胃内容物の逆流によるものが中心です。以下のような症状が代表的です:
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胸やけ、呑酸(どんさん)
胃酸が食道へ逆流することによって、胸の中央部が焼けるような不快感や酸っぱい液体が口まで上がる感覚が生じます。
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みぞおちの痛み、不快感
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食後の膨満感、早期満腹感
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咳や声のかすれ(逆流による咽喉頭刺激)
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呼吸困難感や動悸(重度の場合)
症状の程度には個人差がありますが、就寝中や前かがみの姿勢で悪化しやすいのが特徴です。まれに、傍食道型では胃の一部が胸腔内でねじれ、**強い痛みや嘔吐、嚥下困難を伴う緊急状態(胃軸捻転)**を引き起こすこともあります。
3. 診断に必要な検査
食道裂孔ヘルニアの診断には、以下の検査が行われます:
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上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)
胃と食道の接合部の位置や形態を確認し、逆流性食道炎の有無も同時に評価します。
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胸部X線検査(バリウム造影)
バリウムを飲んで胃の形を確認することで、胃の一部が胸腔内に入り込んでいる様子を可視化します。
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CT検査(必要時)
胸部や腹部の詳細な構造を確認することで、特に傍食道型ヘルニアの評価に役立ちます。
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食道内圧検査・pHモニタリング検査
逆流の頻度や食道の運動機能を評価し、胃食道逆流症の重症度を客観的に把握します。
診断は、問診での症状の聞き取りをもとに、内視鏡検査を中心とした画像検査で確定されます。
4. 主な治療方法
食道裂孔ヘルニアの治療は、症状の程度やタイプに応じて内科的治療と外科的治療に分けられます。
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薬物療法(内科的治療)
・プロトンポンプ阻害薬(PPI)やP-CAB:胃酸の分泌を抑え、逆流症状を軽減
・消化管運動促進薬:胃の排出を助け、食道への逆流を防ぐ
・制酸剤や胃粘膜保護薬:症状緩和の補助的役割
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生活習慣の改善
・食後すぐに横にならない
・少量ずつ複数回の食事に分ける
・脂っこいもの、カフェイン、アルコールを控える
・上半身を少し起こして就寝する(枕を高くする)
・体重管理(特に内臓脂肪の減少)
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手術療法(外科的治療)
薬物療法で改善しない重症例や傍食道型、合併症を伴う場合には、**腹腔鏡下噴門形成術(ニッセン術など)**を行うことがあります。手術により、胃の位置を正し、逆流を防止する構造を再建します。
当院では、内視鏡検査による確実な診断と、症状の程度に応じた薬物療法・生活指導を中心とした治療を行っております。必要に応じて、高度医療機関と連携し、外科的治療のご紹介も可能です。
5. 予防や生活上の注意点
食道裂孔ヘルニアの予防と再発防止のためには、以下のような生活習慣が推奨されます:
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過食を避け、腹八分目を心がける
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就寝前2〜3時間の飲食は控える
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適度な運動で体重をコントロールする
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喫煙・過度の飲酒を控える
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便秘を避ける(腹圧上昇の防止)
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咳が長引く場合は早めに治療する
特に肥満の改善と、胃酸逆流を抑えるための姿勢・食習慣の見直しが、治療の効果を高め、再発の予防にもつながります。
食道裂孔ヘルニアは、加齢とともに誰にでも起こりうる身近な疾患です。
胸やけや胃の不快感が続く場合は、単なる胃の不調と考えず、ぜひ一度専門医による検査を受けることをおすすめします。
当院では、最新の内視鏡機器を用いた正確な診断と、患者さまのライフスタイルに合わせたオーダーメイドの治療を行っております。ご不安やご不明点がありましたら、いつでもご相談ください。