症状
便通異常
■ 便通異常を起こす主な鑑別疾患(全10選)
1. 過敏性腸症候群(IBS)
腹痛と便通異常(便秘・下痢・交替型)が反復し、排便により症状が軽快します。
20〜40代の女性に多く、ストレスや生活習慣の乱れが誘因とされます。
【検査】大腸カメラ(除外目的)、便検査、腹部X線。
2. 大腸がん
便秘、下痢、便の形状変化(細い便)や血便など、慢性的な便通異常を引き起こします。
50歳以上に多く、特に体重減少や貧血を伴う場合は注意が必要です。
【検査】大腸内視鏡、組織生検、便潜血、腹部CT、腫瘍マーカー。
3. 炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・クローン病)
慢性的な下痢、腹痛、血便が特徴で、再燃と寛解を繰り返します。
若年層に好発し、自己免疫異常との関連が示唆されています。
【検査】大腸カメラ、組織生検、便中カルプロテクチン、血液検査(炎症反応)。
4. 甲状腺機能異常(亢進症・低下症)
亢進症では下痢傾向、低下症では便秘傾向が見られ、代謝異常が背景にあります。
女性に多く、動悸・倦怠感・浮腫など他の全身症状を伴うことがあります。
【検査】血液検査(甲状腺ホルモン[TSH・FT4])、甲状腺エコー。
5. 糖尿病性自律神経障害
腸の運動機能が低下または乱れ、便秘や下痢が慢性的に生じます。
中高年の長期糖尿病患者に多く、排尿障害や起立性低血圧を伴うこともあります。
【検査】HbA1c・血糖、神経学的検査、大腸カメラ(除外目的)。
6. 腸閉塞(部分的閉塞含む)
腸内容物の通過障害により、便秘または下痢、腹痛、膨満感を引き起こします。
手術歴のある高齢者に多く、悪化すると吐き気や嘔吐を伴います。
【検査】腹部X線、CT、血液検査(電解質、炎症反応)。
7. 便秘型機能性便通異常(慢性便秘症)
腸管の運動低下や直腸感受性異常などが原因で、排便回数の減少や硬便がみられます。
特に高齢女性に多く、水分摂取不足や運動不足が関係します。
【検査】腹部X線、排便造影、大腸カメラ(除外目的)。
8. 薬剤性便通異常(下痢・便秘)
抗生物質、鎮痛薬、抗うつ薬などが原因で腸の動きが乱れ、便通異常を引き起こします。
多剤併用中の高齢者や長期服用患者に多く見られます。
【検査】服薬歴の確認、便検査、必要に応じて内視鏡。
9. 腸内細菌叢異常(ディスバイオーシス)
腸内細菌のバランスが崩れ、便通の変動、腹部膨満、ガス貯留などが起こります。
抗菌薬使用歴のある方や食生活の偏りがある方にみられます。
【検査】便中細菌叢解析(必要時)、問診、除外診断。
10. 直腸瘤・骨盤底機能障害
骨盤内臓器の支持が低下し、排便困難や残便感、便秘が生じます。
出産経験のある中高年女性に多く、排便時に膣からの圧迫を自覚することもあります。
【検査】排便造影、経腟・経肛門エコー、MRI(骨盤底評価)。
■ 補足
便通異常は一見すると生活習慣の問題に思われがちですが、背景に消化管疾患、内分泌異常、神経障害、悪性疾患が潜んでいることもあります。症状の持続性・便の性状・随伴症状(血便、腹痛、体重減少など)を的確に評価し、的を絞った検査で早期診断を目指すことが重要です。