胃・十二指腸
胃粘膜下腫瘍
1. 疾患の概要
胃粘膜下腫瘍(いねんまくかしゅよう)とは、胃の内側の粘膜の下にできる腫瘍(しゅよう:できもの)の総称です。通常の胃がんとは異なり、胃の粘膜表面にははっきりとした変化が見られないことが多く、内視鏡検査で偶然に発見されるケースも少なくありません。
「粘膜下」という名称のとおり、腫瘍は胃の粘膜の下層、すなわち筋層や粘膜下組織から発生するため、通常の胃カメラでは見逃されることもあります。
代表的な胃粘膜下腫瘍には、以下のようなものがあります:
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GIST(消化管間質腫瘍)
比較的まれながん化の可能性がある腫瘍。増大傾向や内部の不整像がある場合は、手術や内視鏡的切除が検討されます。
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平滑筋腫(良性)
胃の筋層から発生する良性腫瘍。多くは無症状で経過観察となります。
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神経内分泌腫瘍(カルチノイド)
ホルモンを分泌する細胞由来の腫瘍で、タイプによってはがん化のリスクもあります。
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脂肪腫、嚢胞、異所性膵臓など
稀なものも含め、さまざまな種類の腫瘍が存在します。
発症の明確な原因は不明ですが、一部の腫瘍では遺伝的要素や慢性炎症、ピロリ菌感染との関連が示唆されています。
日本国内での発症頻度は高くありませんが、胃カメラを受けた方のうち1〜2%で粘膜下腫瘍が指摘されるという報告もあり、中高年以降の方にやや多く見られる傾向があります。
2. 主な症状
胃粘膜下腫瘍の多くは初期には無症状です。そのため、健診や他疾患の検査中に偶然見つかることがよくあります。
腫瘍がある程度の大きさになると、以下のような症状が現れることがあります:
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胃の不快感、痛み、もたれ
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吐き気や食欲不振
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腫瘍からの出血による黒色便、貧血
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腫瘍が大きくなることで胃の出口を塞ぎ、吐き気や嘔吐
ただし、こうした症状は胃潰瘍や胃がん、機能性ディスペプシアなど他の疾患と類似しているため、内視鏡検査や画像検査による正確な診断が必要です。
3. 診断に必要な検査
胃粘膜下腫瘍の診断には、胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)と超音波内視鏡(EUS)を中心とした検査が行われます。
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胃内視鏡検査(胃カメラ)
腫瘍の隆起(もりあがり)を直接観察し、位置や大きさ、表面の性状などを確認します。ただし、粘膜下にあるため、表面に異常が見られない場合もあります。
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超音波内視鏡(EUS)
内視鏡に超音波装置を組み合わせ、腫瘍の深さ、層構造、内部の性状を高精度で評価します。GISTなどの診断には必須の検査です。
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CT・MRI検査
腫瘍のサイズや他臓器への圧迫・転移の有無を確認します。手術前の評価にも有効です。
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EUS下針生検(EUS-FNA)
必要に応じて、超音波内視鏡を用いて腫瘍に針を刺し、組織を採取して病理診断を行います。
診断の流れは、内視鏡検査で腫瘍を確認→EUSや画像検査で性状・進行度を評価→必要に応じて生検や外科的対応へ移行します。
4. 主な治療方法
胃粘膜下腫瘍の治療方針は、腫瘍の種類・大きさ・増大傾向・悪性化の可能性などを総合的に評価して決定されます。
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経過観察(定期的な内視鏡フォロー)
小さくて良性が疑われる腫瘍(例:2cm以下の胃底腺ポリープなど)は、年1回程度の内視鏡検査で経過観察されます。
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内視鏡的切除
内視鏡を使って粘膜下から腫瘍を切除する治療です。**ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)やEFTR(全層切除術)**などの高度技術が必要ですが、入院期間が短く、体への負担が少ない治療法です。
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外科的手術(腹腔鏡手術など)
腫瘍が大きい、がん化のリスクが高い、あるいは出血や穿孔の危険がある場合には、部分的な胃切除や腫瘍摘出術が行われます。
泉胃腸科外科医院では、地域連携医療機関と連携しながら、必要に応じて高度な検査・治療をご紹介し、術後の経過観察や生活指導を継続的にサポートしています。
5. 予防や生活上の注意点
胃粘膜下腫瘍の予防は難しい部分もありますが、胃粘膜の健康を保つことが腫瘍の発症リスクを抑える可能性があります。
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ピロリ菌感染がある場合は除菌治療を行う
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刺激物(アルコール、辛い物など)の過剰摂取を控える
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バランスの良い食生活を心がける
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ストレスを溜めず、規則正しい生活を送る
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定期的な胃カメラでのチェックを継続する
また、以前に腫瘍を指摘されたことがある方や、ご家族に胃がんや消化管腫瘍の既往がある方は、定期的な内視鏡検査が特に重要です。
胃粘膜下腫瘍は、ほとんどが良性ですが、中には注意が必要なものも含まれています。
泉胃腸科外科医院では、正確な内視鏡診断と専門医による経過管理を通じて、患者さまの安心と安全を第一に考えた医療を提供しています。
「胃にポリープがあると言われた」「以前の検査で異常を指摘された」といった方は、ぜひ当院へお気軽にご相談ください。