肝臓・胆のう・膵臓
原発性硬化性胆管炎(PSC)
1. 疾患の概要
原発性硬化性胆管炎(PSC:Primary Sclerosing Cholangitis)は、肝内および肝外の胆管に慢性的な炎症が起こり、胆管の狭窄や閉塞、線維化(硬化)が進行していく自己免疫性の慢性胆道疾患です。胆管は、肝臓でつくられた胆汁を十二指腸に送る通り道であり、この胆管に炎症や瘢痕が生じることで、胆汁がうまく流れず、胆汁うっ滞性の肝障害を引き起こします。
PSCは徐々に進行する病気であり、長期的には肝硬変や胆管がん、肝不全に至る可能性もあるため、定期的な診療・検査と適切な管理が非常に重要です。
発症の原因
PSCの明確な原因は未だ不明ですが、自己免疫の異常が関与していると考えられています。患者の多くは、炎症性腸疾患(特に潰瘍性大腸炎)を合併しており、腸と胆管の免疫的な関連性が注目されています。
【考えられるリスク因子】
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潰瘍性大腸炎やクローン病の合併
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遺伝的要素(特定のHLA型との関連)
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環境因子(感染や腸内細菌叢の変化など)
なお、飲酒や脂肪肝、ウイルス性肝炎とは直接の関係はありません。
日本国内での発症傾向
PSCは日本では比較的まれな疾患であり、推定患者数は数千人程度とされています。欧米に比べると罹患率は低いものの、近年は認知度の高まりや検査技術の進歩により、診断されるケースが増加しています。
発症年齢は30〜50代が中心で、男性にやや多く、約70%以上の症例で潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患を合併しています。
2. 主な症状
PSCは初期には無症状のことも多く、血液検査で肝機能異常を指摘されて発見される場合が一般的です。病状が進行すると、以下のような症状が現れることがあります。
【代表的な症状】
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倦怠感、全身のだるさ
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皮膚のかゆみ(特に夜間)
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黄疸(皮膚や眼の白目が黄色くなる)
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発熱(細菌性胆管炎の合併時)
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右上腹部の違和感や痛み
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脂肪便や体重減少(胆汁分泌の低下による)
胆管炎を繰り返すようになると、悪寒や発熱を伴う急性症状を呈する場合もあり、入院治療が必要になることもあります。
3. 診断に必要な検査
PSCの診断には、血液検査と画像検査の組み合わせが基本となります。典型的な胆管像や慢性の胆汁うっ滞を示す異常をもとに、他疾患を除外しながら総合的に診断します。
【主な検査】
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血液検査
・ALP(アルカリホスファターゼ)やγ-GTPの上昇
・自己抗体(p-ANCA、ANAなど)の有無
・炎症所見、肝機能評価 -
画像検査
・MRCP(磁気共鳴胆管膵管造影):胆管の多発性狭窄・拡張(ビーズ状変化)を捉える非侵襲的検査
・腹部超音波検査、CT、ERCPなども症例に応じて使用 -
内視鏡的逆行性胆道造影(ERCP)
必要に応じて行われる精密検査。胆管の形態異常や胆管癌の鑑別にも役立ちます。 -
大腸内視鏡検査
炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎など)の合併評価のため、原則として全例に行います。
4. 主な治療方法
現時点では、PSCそのものを根治させる薬物療法は確立されていません。しかし、症状の緩和や合併症予防、進行抑制を目的とした包括的な管理が行われています。
【主な治療戦略】
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ウルソデオキシコール酸(UDCA)
胆汁の流れを促進し、ALPの改善が期待されますが、病勢進行そのものへの明確な効果は限定的です。 -
細菌性胆管炎の治療
胆管狭窄部に細菌感染が起こることがあり、抗菌薬投与や胆管ステント留置が必要となる場合もあります。 -
胆管狭窄への内視鏡治療(ERC+バルーン拡張、ステント)
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肝移植
進行性のPSCにおいては、最終的に肝移植が唯一の根本的治療となるケースもあります。
泉胃腸科外科医院では、肝胆道疾患の専門的診断・治療を行うとともに、症状や検査結果に応じて適切な高次医療機関への紹介も含めた連携体制を整えています。
5. 予防や生活上の注意点
PSCの予防方法は確立されていませんが、病気の進行を抑え、合併症を防ぐための生活管理は非常に重要です。
【日常生活での注意点】
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肝臓に負担をかける生活習慣の見直し(禁酒、禁煙)
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バランスの良い食事と適度な運動
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ワクチン接種(B型肝炎・インフルエンザ・肺炎球菌など)
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脂溶性ビタミン(A、D、E、K)の補充(胆汁分泌低下により欠乏しやすいため)
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骨粗しょう症対策(ビタミンDとカルシウムの摂取)
また、大腸がん・胆管がんの発症リスクが高くなるため、定期的な内視鏡検査と画像評価が必須です。
おわりに
原発性硬化性胆管炎(PSC)は、進行性かつ難治性の胆道疾患ではありますが、定期的な診療と生活管理により、合併症を未然に防ぎながら安定した経過を保つことが可能です。
泉胃腸科外科医院では、PSCを含む肝胆道疾患の総合的な診断・治療体制を整えており、患者さま一人ひとりに合わせた個別対応を心がけております。
「肝機能異常を指摘された」「原因のはっきりしない倦怠感やかゆみが続いている」といった場合には、どうぞお気軽にご相談ください。