肝臓・胆のう・膵臓

原発性胆汁性胆管炎(原発性胆汁性肝硬変・PBC)

1. 疾患の概要

原発性胆汁性胆管炎(PBC:Primary Biliary Cholangitis)は、主に肝臓内にある細い胆管が慢性的に炎症を起こし、徐々に破壊されていく自己免疫性の疾患です。胆管は、肝臓で作られた胆汁を小腸まで運ぶ役割を担っており、この胆管が障害されることで胆汁が肝臓内に滞り、肝機能が徐々に低下していきます。

PBCはかつて「原発性胆汁性肝硬変」とも呼ばれていましたが、早期には肝硬変に至らないことが多いため、2015年に「原発性胆汁性胆管炎」へと名称が変更されました。

この病気は進行性ではありますが、早期に発見し、適切な治療を行うことで進行を抑制し、長期にわたり安定した経過を保つことが可能です。


発症の原因

PBCの原因は明確には解明されていませんが、自己免疫の異常が中心に関与していると考えられています。何らかの要因によって体の免疫システムが誤って自身の胆管細胞を攻撃し、それが慢性的な炎症や胆管の破壊を引き起こすとされています。

【考えられる要因】

  • 自己免疫の異常(抗ミトコンドリア抗体など)

  • 遺伝的素因

  • 環境因子(感染、化学物質への暴露など)

  • 女性ホルモンの関与

感染症や飲酒、脂肪肝などの生活習慣は直接的な原因ではありません。


日本国内での罹患率と傾向

PBCは稀な疾患ではありますが、近年では健診などで偶然見つかる無症候性のケースも増加しています。日本における患者数は推定で約3万人以上とされており、男女比では約90%が女性、特に40〜60代の中高年女性に多く見られます。


2. 主な症状

PBCは初期には症状が現れないことも多く、健康診断の血液検査で肝機能異常を指摘されて発見されることがよくあります。進行に伴って、以下のような症状が現れます。

【代表的な症状】

  • 慢性的な疲労感(倦怠感)

  • 皮膚のかゆみ(特に夜間)

  • 眼や口の乾燥感(シェーグレン症候群との関連)

  • 右上腹部の不快感

  • 黄疸(進行例)

  • 黒色便や脂肪便(胆汁分泌低下による)

症状の進行により、肝硬変や門脈圧亢進症(腹水、食道静脈瘤など)、肝不全へと至る可能性があるため、早期の診断と介入が重要です。


3. 診断に必要な検査

PBCの診断には、血液検査が最も基本的で有用です。さらに必要に応じて、画像診断や肝組織検査が行われます。

【主な検査項目】

  • 血液検査
     ・ALP(アルカリホスファターゼ)やγ-GTPの上昇
     ・抗ミトコンドリア抗体(AMA)が陽性(90%以上の患者で確認される)
     ・自己抗体(ANA、IgMなど)

  • 腹部超音波・CT・MRI
     胆道の拡張や結石、腫瘍など他の胆汁うっ滞性疾患との鑑別に使用されます。

  • 肝生検(必要時)
     肝組織を採取し、胆管の炎症や線維化の程度を確認します。病期分類にも用いられます。

診断は、血液検査(特にAMA陽性)を基礎に、他の原因を除外した上で総合的に確定します。


4. 主な治療方法

PBCの治療は、病気の進行を抑える薬物療法を中心に、かゆみや倦怠感などの症状に対する対症療法も行われます。

【主な治療法】

  • ウルソデオキシコール酸(UDCA)
     胆汁の流れを改善し、肝細胞の保護作用があります。PBC治療の第一選択薬で、早期からの服用が推奨されます。

  • オベチコール酸(OCA)
     UDCAに対して効果不十分な場合に使用される新しい薬剤で、胆汁うっ滞の改善が期待されます。

  • かゆみ対策
     ・抗ヒスタミン薬
     ・コレスチラミン
     ・リファキシミン(腸内フローラ調整)

  • 脂溶性ビタミンの補充(A・D・Kなど)

  • 骨粗しょう症対策
     進行例ではビタミンDやカルシウム製剤の補給が必要になることがあります。

泉胃腸科外科医院では、血液検査や画像診断による定期的なモニタリングに加え、薬物治療、栄養指導、生活指導を包括的に提供しております。必要に応じて肝臓専門医療機関との連携も行っております。


5. 予防や生活上の注意点

PBCは自己免疫性疾患であり、現時点では明確な予防法は確立されていません。しかし、以下のような生活習慣の改善により、症状の軽減や進行の抑制が期待できます。

【生活上のポイント】

  • アルコールを控える:肝機能に負担をかけないことが重要です。

  • 栄養バランスの良い食事:高たんぱく・低脂肪の食事を心がけましょう。

  • 規則正しい生活と適度な運動:疲労や免疫低下を防ぐ生活リズムが重要です。

  • 禁煙:喫煙は全身の炎症や免疫反応に悪影響を与えます。

  • 薬の自己中断をしない:症状がなくても継続的な治療が必要です。

また、肝機能の状態に応じて、定期的な検査(血液、骨密度、画像診断)を受けることが、合併症の予防・早期発見に役立ちます。


おわりに

原発性胆汁性胆管炎(PBC)は、早期診断と継続的な治療により、生活の質を保ちつつ長期的に管理可能な病気です。
泉胃腸科外科医院では、消化器専門医によるきめ細やかな診療と、他医療機関との連携体制を通じて、安心して治療を継続できる環境をご提供しております。

「健康診断で肝機能を指摘された」「慢性的なかゆみや疲れが気になる」など、少しでも心配な症状がある方は、ぜひ一度ご相談ください。