小腸・大腸・肛門

過敏性腸症候群(IBS)

1. 疾患の概要

過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome:IBS)は、腸に明らかな器質的異常が認められないにもかかわらず、慢性的な腹痛や腹部不快感、下痢、便秘といった排便に関連する症状が繰り返し現れる疾患です。腸の運動機能や知覚過敏、心理的ストレスなどが複雑に関与していると考えられており、機能性消化管疾患の一つに分類されます。

IBSの原因は完全には解明されていませんが、腸の蠕動運動の異常、自律神経のバランス異常、腸内細菌の変化、過去の感染性腸炎、ストレスや不安などの心理的要因が発症・悪化に関与しているとされています。

日本国内においては、成人の約10〜15%がIBSの症状を抱えているとされ、特に20〜40代の若年〜中年層に多くみられます。男女ともに発症しますが、便秘型は女性に、下痢型は男性にやや多い傾向があります。

 

2. 主な症状

過敏性腸症候群の代表的な症状には、以下のようなものがあります。

  • 腹痛または腹部不快感(排便によって軽減されることが多い)

  • 下痢または便秘(あるいはその両方を繰り返す)

  • 排便後も残便感がある

  • 排便回数や便性状の変化(便が硬すぎる/水様になる)

  • お腹の張り(膨満感)やガスがたまる感じ

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IBSは大きく4つのタイプに分類されます。

  • 下痢型(IBS-D):頻回な水様便が特徴。

  • 便秘型(IBS-C):排便困難で硬便傾向。

  • 混合型(IBS-M):下痢と便秘が交互に現れる。

  • 分類不能型(IBS-U):腹痛が主など上記に該当しない不定型。

症状の程度には個人差がありますが、長期間にわたって日常生活に支障をきたすこともあります。潰瘍性大腸炎や大腸がんなどの器質的疾患とは異なり、内視鏡や血液検査で明らかな異常が見られないことが特徴です。

 

3. 診断に必要な検査

IBSの診断は、主に症状と診察所見に基づいて行われます。診断を確定する前には、他の重篤な疾患を除外するために以下のような検査を行います。

  • 血液検査:炎症や貧血の有無を確認し、炎症性腸疾患などを除外します。

  • 便検査:感染性腸炎や潜血の確認。

  • 腹部超音波検査・腹部CT:腫瘍や器質的病変の有無を確認します。

  • 大腸内視鏡検査:40歳以上の方や症状が長引く方には、器質的疾患(大腸がん、炎症性腸疾患など)との鑑別のために推奨されます。

診断基準としては、Rome基準(Rome IV)が国際的に用いられています。「直近3か月間に、平均して週1回以上の腹痛があり、それが排便に関連していた(排便で軽減、頻度や便形状の変化を伴う)」などの要件が該当すればIBSと診断されます。

 

4. 主な治療方法

IBSの治療は、症状のタイプに応じて個別化されます。治療は段階的に進められ、まずは生活習慣や食事の見直しが基本となります。

  • 食事療法
    食物繊維の適度な摂取、脂肪や刺激物の制限、アルコールやカフェインの調整が有効です。近年ではFODMAPと呼ばれる発酵性糖質の制限が効果的とされる場合もあります。

  • 薬物療法

    • 下痢型:整腸剤や漢方が無効の場合、まずはイリボーを用います。

    • 便秘型:便をやわらかくする薬(酸化マグネシウムなど)、刺激性下剤。

    • 混合型:混合型や、便秘型で緩下剤で改善しない場合、ポリフルを用います。
    • 腹痛:抗コリン薬、消化管運動調整薬、漢方薬など。

    • 精神的症状の強い方には抗不安薬や抗うつ薬が処方されることもあります。

  • 生活指導
    ストレスマネジメントや睡眠の質の改善も治療効果を高める重要な要素です。必要に応じて心理療法(認知行動療法など)も有効です。

当院では、診察・検査を通じた的確な診断に基づき、症状のタイプに応じた薬物治療・食事指導・生活指導を提供しております。必要に応じて内視鏡検査や心理的サポートも行っております。

 

5. 予防や生活上の注意点

過敏性腸症候群は完全に予防できる疾患ではありませんが、以下のような生活習慣が発症・悪化を防ぐうえで重要です。

  • 規則正しい生活リズムの維持

  • バランスの取れた食事と適度な水分補給

  • 過度なストレスを避けること(ストレス発散方法の確立)

  • 適度な運動習慣

  • 十分な睡眠

また、自己判断で市販薬を長期間使用することは避け、症状が長引く場合や日常生活に支障をきたす場合は、早めに医療機関へ相談することが重要です。