胃・十二指腸
ヘリコバクター・ピロリ感染
1. 疾患の概要
ヘリコバクター・ピロリ(H. pylori)は、胃の中に生息するらせん状の細菌で、胃の粘膜に慢性的な炎症を引き起こす原因菌として知られています。感染が長期間続くと、慢性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃がんなどの消化器疾患を引き起こす可能性があるため、医学的にも重要な細菌です。
ピロリ菌は、胃酸という強酸の中でも生存できる特殊な能力を持ち、ウレアーゼという酵素を使って周囲を中和することで胃内に定着します。一度感染すると自然に除菌されることはほとんどなく、適切な検査と除菌治療が必要です。
発症の原因
ヘリコバクター・ピロリの感染は、主に幼少期の生活環境を通じて経口感染すると考えられています。
【主な感染経路】
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感染者との口移しや同じ食器の共用
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不衛生な飲料水や井戸水の使用
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家族内感染(特に母子間)が多く報告されています
成人になってからの感染はまれで、日本ではピロリ菌感染者の多くが乳幼児期に感染していると推定されています。
日本国内における感染状況
かつては日本人の多くがピロリ菌に感染しており、1970年代生まれ以前では50%を超える高い感染率が見られました。しかし、上下水道の整備や衛生環境の改善により、近年の若年層では感染率が大きく低下しています。
現在では年代による感染率の差が大きく、60代以上では約50%、20代以下では10%以下といった傾向がみられます。性別による明確な差はありません。
2. 主な症状
ピロリ菌に感染していても、初期には無症状のことが多く、自覚症状がないまま慢性胃炎が進行していきます。しかし、時間の経過とともに以下のような消化器症状が現れることがあります。
【代表的な症状】
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みぞおちの不快感や痛み
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食後の膨満感
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食欲不振
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吐き気・げっぷ・胸やけ
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黒色便(出血がある場合)
また、感染が長期化することで胃の粘膜が萎縮し、「萎縮性胃炎」や「胃がん」のリスクが高まります。潰瘍再発の背景にピロリ菌感染があるケースも多く、原因の解明が治療には不可欠です。
3. 診断に必要な検査
ピロリ菌感染の有無は、非侵襲的な検査と内視鏡を用いた検査のいずれかで診断されます。
【主な検査方法】
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尿素呼気試験(高精度で負担の少ない検査)
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抗体検査(血液・尿):感染歴のスクリーニングに有用
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便中抗原検査:除菌後の判定にも使用
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胃カメラ検査(内視鏡下迅速ウレアーゼ試験、組織染色)
胃内視鏡検査と併用することで、慢性胃炎や潰瘍、萎縮の有無を直接観察しながら感染診断を行うことができます。胃がんリスクの評価もあわせて実施できます。
4. 主な治療方法
ピロリ菌の治療は、抗菌薬と胃酸分泌抑制薬を併用した「除菌療法」が標準です。
【一次除菌(初回治療)】
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プロトンポンプ阻害薬(PPI)またはカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)
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クラリスロマイシン
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アモキシシリン
7日間または14日間の内服治療で、約70〜90%の成功率が報告されています。
【二次除菌(一次除菌が失敗した場合)】
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抗菌薬を一部変更し、再度除菌を実施(約90%の成功率)
【除菌治療の注意点】
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必ず医師の指示に従い、決められた期間服用を継続すること
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副作用(下痢、味覚異常など)はまれに見られるが、大部分は軽微
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除菌後は効果判定のための再検査(尿素呼気試験など)が必要
泉胃腸科外科医院では、胃カメラによる精密診断とピロリ菌検査・除菌治療を一貫して実施しております。必要に応じて、保険適用での治療も可能です。
5. 予防や生活上の注意点
ピロリ菌は一度除菌すれば再感染のリスクは非常に低いとされていますが、予防のためには以下の生活習慣が推奨されます。
【予防のためのポイント】
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家族間での食器共有を避ける
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生水や不衛生な飲食物を避ける
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胃の不調を放置せず、検査を受ける
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定期的な内視鏡検査を行い、胃の状態を確認
除菌後も胃粘膜に萎縮が残る場合は、胃がんのリスクがゼロになるわけではないため、年1回の胃内視鏡検査を継続することが望まれます。
おわりに
ヘリコバクター・ピロリ感染は、症状のない段階から胃に影響を及ぼし、将来的な重大な疾患につながることもあるため、早期発見・早期治療が何よりも重要です。
泉胃腸科外科医院では、胃カメラや尿素呼気試験などの最新機器を用いた正確な診断と、保険適用による除菌治療を提供しております。
「健診でピロリ菌を指摘された」「慢性的な胃の不調が続いている」「家族に胃がんの人がいる」など、気になることがある方は、どうぞお気軽に当院へご相談ください。
※除菌後の判定検査の時期や除菌後の内視鏡フォローについても、個別にご案内いたします。ご希望の方はスタッフまでお申し出ください。