胃・十二指腸

胃悪性リンパ腫

1. 疾患の概要

胃悪性リンパ腫(いあくせいリンパしゅ)は、胃に発生するリンパ系のがんの一種です。リンパ腫とは、リンパ球という白血球の一種ががん化したもので、全身のリンパ節や臓器に発生することがありますが、胃に限局して発生するものは「原発性胃リンパ腫」と呼ばれます。

胃悪性リンパ腫の中でも、以下の2つが代表的です:

  • MALTリンパ腫(低悪性度)

     胃粘膜のリンパ組織に発生する比較的進行が遅いリンパ腫で、ヘリコバクター・ピロリ感染との関連が深いことが特徴です。

  • びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)

     進行が早く、悪性度の高いタイプです。全身への転移を起こすこともありますが、適切な治療により完治が見込める腫瘍でもあります。

原因としては、ピロリ菌感染、免疫異常、遺伝的要因、長期間の炎症性疾患などが挙げられます。特にMALTリンパ腫は、ピロリ菌除菌によって治癒が期待できる唯一のがんのひとつです。

日本国内では、胃がん全体の中で胃悪性リンパ腫の割合は約3〜5%程度とされており、比較的まれながらも、中高年層に多く、男性にやや多い傾向があります。


2. 主な症状

胃悪性リンパ腫の症状は、他の胃疾患と似ているため見分けがつきにくいことがあります。また、初期には無症状のことも多く、検診や胃カメラで偶然発見されることもあります。

代表的な症状には次のようなものがあります:

  • みぞおちの不快感・鈍い痛み

  • 食後のもたれ、食欲不振

  • 体重減少

  • 黒色便(腫瘍からの出血による)

  • 貧血症状(めまい、動悸など)

腫瘍の進行により、胃潰瘍や胃がんと似た症状を示すことがあるため、内視鏡検査と組織検査による正確な診断が必要です。


3. 診断に必要な検査

胃悪性リンパ腫の診断には、胃カメラによる観察と病理検査(生検)が中心となります。必要に応じて追加の画像検査や血液検査も行われます。

  • 上部消化管内視鏡(胃カメラ)

     胃粘膜の異常(びらん、潰瘍、隆起など)を確認します。リンパ腫特有の網目状・粘膜肥厚の所見が見られることがあります。

  • 内視鏡生検(組織採取)

     病変部から組織を採取し、病理検査でリンパ腫かどうかを判定します。リンパ腫のタイプの鑑別に不可欠です。

  • 血液検査

     貧血や炎症反応の有無、LDH(悪性度の指標)、腫瘍マーカーの確認。

  • CT検査、PET-CT検査

     リンパ節や他臓器への転移の有無を評価するために使用されます。治療前の病期(ステージ)判定に重要です。

診断は、胃カメラ+病理検査による確定診断→画像検査による病期評価という流れで進行します。


4. 主な治療方法

胃悪性リンパ腫の治療法は、リンパ腫の種類・進行度・全身状態によって選択されます。特にMALTリンパ腫ではピロリ菌の除菌治療が第一選択となることが特徴です。

  • ピロリ菌除菌療法(MALTリンパ腫)

     抗菌薬と胃酸分泌抑制薬を1週間服用する治療で、除菌成功後にがん細胞が自然に消失する例が多数報告されています

  • 化学療法(抗がん剤治療)

     悪性度の高いDLBCLや進行例では、R-CHOP療法などの化学療法が行われます。副作用はありますが、高い治療効果が期待されます

  • 放射線療法

     局所に限局したリンパ腫に対しては、化学療法と併用して照射療法を行うことで根治が目指せるケースもあります。

  • 手術療法

     かつては診断目的での手術も行われていましたが、現在では手術はあまり行われず、内視鏡と画像での診断が中心です。ただし、出血や穿孔などの合併症時には緊急手術が必要な場合もあります。

当院では、胃カメラによる早期診断・ピロリ菌除菌、近隣の中核病院との連携による化学療法や放射線治療のご紹介を通じて、総合的な診療体制を整えています。


5. 予防や生活上の注意点

胃悪性リンパ腫そのものを完全に予防する方法は確立されていませんが、以下の点に気をつけることでリスクの軽減や早期発見につながります

  • ピロリ菌検査と除菌治療を受ける

     特に慢性胃炎がある方、胃カメラで異常を指摘された方は、ピロリ菌感染の有無を確認し、陽性なら除菌治療を受けることが推奨されます。

  • 定期的な内視鏡検査

     胃に違和感がある方や、過去にポリープや炎症を指摘されたことがある方は、1〜2年に1回の胃カメラでの経過観察が勧められます。

  • 栄養バランスのとれた食事と適度な運動

  • 喫煙・過度な飲酒を控える

     全身の免疫機能を保ち、がんの発生リスクを下げる効果があります。

  • 治療後の経過観察を怠らない

     治療が完了した後も、定期的な胃カメラや画像検査での再発チェックが重要です。


胃悪性リンパ腫は、正確な診断と適切な治療により、完治が十分に期待できる疾患です。

泉胃腸科外科医院では、胃内視鏡検査・ピロリ菌診断と除菌・他医療機関との連携による集学的治療サポートを通じて、患者さま一人ひとりに最適な医療をご提供いたします。

「胃が重い」「健診で異常を指摘された」など、少しでも気になる症状があれば、お早めにご相談ください。