胃・十二指腸

胃がん

1. 疾患の概要

胃がんとは、胃の粘膜の細胞が何らかの原因でがん化し、異常な増殖を始める悪性腫瘍です。がん細胞は初期には粘膜の浅い層に留まっていますが、進行するにつれて深い層や隣接する臓器へと浸潤したり、おなかの中に散らばったり、血管やリンパ管を通して他の遠い臓器やリンパ節に転移したりします。

胃がんは、早期に発見・治療すれば治癒が期待できるがんであり、内視鏡治療による根治も可能な症例が増えています。一方で、自覚症状が乏しく、進行するまで気づかれにくいことがあるため、定期的な検査が非常に重要です。

発症の主な原因には以下のようなものがあります:

  • ヘリコバクター・ピロリ(H. pylori)感染

     長期間の感染は慢性胃炎を引き起こし、やがて萎縮性胃炎や腸上皮化生といった前がん状態を経て胃がんに進行することがあります。

  • 生活習慣(高塩分食・喫煙・過度な飲酒・野菜不足など)

  • 遺伝的要因(家族性胃がんや遺伝性腫瘍症候群)

  • 年齢・性別

     50歳以上の中高年に多く、男性の方がやや多い傾向があります。

日本における胃がんの罹患数は年々減少傾向にありますが、それでも年間約12万人が新たに診断されるとされ、依然として注意が必要な疾患です。


2. 主な症状

胃がんは初期の段階では自覚症状がほとんどないことが多いため、健診で偶然発見されることも少なくありません。症状が現れる場合、以下のようなものがあります:

  • みぞおちの痛みや不快感

  • 胃もたれ、膨満感

  • 食欲不振

  • 体重減少

  • 吐き気や嘔吐

  • 黒色便(タール便)や吐血(出血を伴う場合)

  • 貧血による倦怠感、動悸

これらの症状は胃潰瘍や機能性ディスペプシアと似ているため、症状のみでがんと診断することはできません。また、がんが進行すると、腫瘍によって胃の出口が塞がれ、食物の通過障害をきたすこともあります。


3. 診断に必要な検査

胃がんの診断には、複数の検査を組み合わせて行います。

  • 上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)

     最も重要な検査です。胃内の粘膜を直接観察し、がんが疑われる部位があれば生検(組織採取)を行い、顕微鏡でがん細胞の有無を確認します。

  • 腹部超音波検査(腹部エコー)・胸腹部CT検査

     がんの進行度(深さや転移の有無)を評価します。特にリンパ節転移・肺転移・肝転移・腹膜転移・腹水の確認に有用です。

  • 血液検査

     貧血や栄養状態、肝機能、腫瘍マーカー(CEA、CA19-9など)の測定を行います。

  • 下部消化管内視鏡検査(大腸カメラ)

     胃がんと同時に他の消化管腫瘍がないかを確認する目的で実施します。特に手術適応の胃がんが見つかった場合は、大腸がんであれば同時手術の可能性もあります。不要な2回目の手術を避けるためにも、治療前の検査をお勧めしています。

これらの検査結果を総合的に評価し、がんの有無・進行度(ステージ)・治療方針を決定します。


4. 主な治療方法

胃がんの治療は、がんの進行度や患者さまの全身状態に応じて選択されます。

  • 内視鏡治療(内視鏡的粘膜切除術・粘膜下層剥離術)

     早期胃がんの中でも、リンパ節転移の可能性が極めて低い場合に適応されます。体への負担が少なく、短期入院での治療が可能な場合もあります。

  • 外科手術

     がんの部位や大きさに応じて胃の一部または全体を切除し、必要に応じてリンパ節も切除します。近年では腹腔鏡手術ロボット支援手術も選択肢となっています。

  • 薬物療法(抗がん剤、分子標的薬、免疫療法)

     進行がんや再発例では、内科的治療が中心となります。化学療法の効果や副作用を見ながら、治療を継続します。

  • 放射線療法

     一部の進行例や再発例に対して、緩和的に行われることがあります。

当院では、胃カメラによる精密検査と早期発見を重視し、治療が必要な場合は連携する県内外のがん拠点病院の中から適切な病院を選定し、速やかに患者さまに最も適した医療を提供いたします。


5. 予防や生活上の注意点

胃がんを予防するためには、原因となる要因をできるだけ避けることが重要です。

  • ピロリ菌の除菌治療

     ピロリ菌感染が確認された場合、除菌を行うことで胃がんのリスクを大幅に減らすことができます。

  • バランスのとれた食事

     塩分の高い食品や燻製・加工肉の摂取を控え、野菜や果物を積極的に取り入れましょう。

  • 禁煙・節酒

     たばこや過度の飲酒はがん全体のリスクを高めます。禁煙支援も行っております。

  • ストレス管理と十分な睡眠

     自律神経のバランスが胃の健康に影響することもあります。

  • 定期的な胃カメラ検査

     特にピロリ菌感染歴のある方、胃の萎縮がある方、家族歴のある方は、年1回の内視鏡検査が推奨されます。


胃がんは、早期発見・早期治療により完治が可能な疾患です。症状がなくても、リスクのある方は定期的な検査を受けることで、ご自身の健康を守ることができます。

当院では、胃がんの予防から診断、適切なタイミングでの専門医療機関への紹介まで、一貫したサポート体制を整えております。気になる症状がある方や、健診で異常を指摘された方は、どうぞお気軽にご相談ください。