小腸・大腸・肛門
カルチノイド(神経内分泌腫瘍)
1. 疾患の概要
カルチノイドとは、神経内分泌腫瘍(Neuroendocrine Tumor: NET)の一種であり、主に消化管や気管支、膵臓などに発生する比較的進行が緩やかな腫瘍です。神経内分泌細胞は、ホルモンや神経伝達物質に似た物質を分泌する機能を持っており、カルチノイド腫瘍はこのような細胞から発生します。
発生部位としては、小腸(特に回腸)、虫垂、大腸、直腸、胃、膵臓などが挙げられます。これらの腫瘍はホルモンを過剰に分泌するタイプと、分泌しないタイプに分類されます。前者では特有の症状(カルチノイド症候群)を呈することがありますが、多くは無症状で経過し、検診や内視鏡で偶然発見されることもあります。
原因は完全には解明されていませんが、遺伝性腫瘍症候群(多発性内分泌腺腫症:MENなど)との関連が指摘されることがあります。日本における正確な罹患率は不明ですが、比較的稀な腫瘍に分類され、年齢を問わず発症するものの、40〜60歳代での発見が多い傾向があります。性差は特に顕著ではありません。
2. 主な症状
カルチノイド腫瘍の症状は、腫瘍の部位やホルモン分泌の有無によって異なります。
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無症状:多数は早期に症状を示さず、検診や他疾患の精査中に発見されます。
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腹痛・下痢・便秘:消化管にできた腫瘍による局所刺激や腸閉塞の前兆。
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出血・貧血:腫瘍からの出血によって黒色便や血便がみられる場合があります。
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カルチノイド症候群(ホルモン産生腫瘍の場合):
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顔面紅潮(flush)
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頻回の水様性下痢
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喘鳴や動悸
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心臓弁膜症(右心系に多い)
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ただし、カルチノイド症候群は肝転移などでホルモンが全身に及ぶ状況でないと出現しにくいため、進行例に多い症状です。
3. 診断に必要な検査
カルチノイドの診断には、画像検査と内視鏡検査、さらにホルモン測定や腫瘍マーカーの測定などが組み合わされます。
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内視鏡検査(胃カメラ・大腸カメラ):
小さな隆起性病変として発見され、生検によって診断がつきます。 -
画像検査(CT・MRI・超音波・PET):
腫瘍の大きさ・転移の有無を評価。特にGa-DOTATOC PET-CTなど、神経内分泌腫瘍に特化した核医学検査も有用です。 -
血液・尿検査:
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クロモグラニンA(腫瘍マーカー)
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5-HIAA(尿中ホルモン代謝産物)など
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診断は、内視鏡所見+病理組織検査(免疫染色によるNETマーカーの確認)によって確定されます。
4. 主な治療方法
治療は、腫瘍の大きさ・部位・悪性度(グレード)・転移の有無などによって異なります。
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内視鏡的切除:
直腸や胃のカルチノイドなど、サイズが1cm以下で深達度が浅い場合に適応されます。 -
外科手術:
大きさが1cmを超えるもの、筋層浸潤が疑われるもの、リンパ節転移の可能性がある場合に選択されます。 -
薬物療法:
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ソマトスタチンアナログ(オクトレオチド、ランレオチド):
ホルモンの過剰分泌を抑制し、症状の緩和と進行の抑制が期待できます。 -
分子標的治療薬・化学療法:進行例や再発例に対して使用されます。
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当クリニックでは、病理診断後の専門医連携による治療計画の立案を行っております。
5. 予防や生活上の注意点
カルチノイドの明確な予防法は確立されていませんが、以下の点が重要です。
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定期的な検診・内視鏡検査:無症状でも腫瘍が進行することがあるため、特に消化器症状がある方には定期検査を推奨します。
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家族歴の確認:遺伝性疾患との関連がある場合は、専門医の評価を受けることが望ましいです。
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生活習慣の見直し:バランスの良い食生活と過度な飲酒・喫煙の回避など、腫瘍一般のリスク因子のコントロールも重要です。
カルチノイドは比較的進行がゆるやかである一方、1cm以上ではリンパ節転移の可能性があるため、発見が遅れると全身に影響を及ぼすこともあります。当院では内視鏡による早期診断と、必要に応じた専門施設との連携により、患者様一人ひとりに最適な医療をご提供しています。ご不安な症状がある場合は、どうぞお気軽にご相談ください。