胃・十二指腸

GIST

1. 疾患の概要

GIST(ジスト)とは、「Gastrointestinal Stromal Tumor」の略で、日本語では消化管間質腫瘍(しょうかかんかんしつしゅよう)と呼ばれる腫瘍です。主に胃や小腸などの消化管の壁の深い部分(間質)に発生する腫瘍で、一般的ながんとは異なる性質を持っています。

GISTは、消化管の運動を担う**カハール介在細胞(Cajal細胞)**と呼ばれる細胞ががん化することで発生すると考えられており、がんの一種ではありますが、従来型の胃がんや大腸がんとは異なる治療方針が必要となります。

原因としては、c-kit遺伝子やPDGFRA遺伝子の異常が関係していることが多く、これらの遺伝子変異によって腫瘍が増殖します。生活習慣や感染との直接的な関係は明確には示されていませんが、一部の遺伝性疾患に合併するケースもあります。

日本国内では、GISTは年間1,500〜2,000人程度の発症が推定されており、比較的稀な腫瘍とされています。男女差はあまりなく、中高年(50歳以上)に多いとされています。


2. 主な症状

GISTは比較的ゆっくりと成長する腫瘍であり、初期にはほとんど症状が現れないことが多いのが特徴です。定期的な内視鏡検査や画像検査で偶然見つかることも珍しくありません。

進行してくると、以下のような症状が現れることがあります:

  • 胃もたれ、腹部膨満感

  • みぞおちの痛みや不快感

  • 消化管出血(黒色便や吐血)

  • 貧血(出血が慢性化した場合)

  • しこりとして触れる腫瘤感(腹部)

また、腫瘍が大きくなると周囲の臓器を圧迫して症状が現れることがあります。なお、症状は腫瘍の大きさや発生部位によって大きく異なります。

他の消化器疾患(胃潰瘍や胃がんなど)と似た症状を示すことがあるため、正確な診断には精密検査が欠かせません


3. 診断に必要な検査

GISTの診断には、内視鏡検査や画像検査、組織検査を組み合わせたアプローチが必要です。

  • 上部消化管内視鏡(胃カメラ)

     腫瘍の有無、表面の状態、出血の有無などを観察します。GISTは粘膜の下から隆起してくるため、表面は一見正常に見えることもあります

  • 超音波内視鏡検査(EUS)

     腫瘍の深さや層構造を評価し、GISTかどうかの鑑別に極めて有用です。必要に応じてEUS下穿刺(EUS-FNA)を行い、組織を採取して病理診断を行います。

  • CT検査、MRI検査

     腫瘍の大きさや形状、周囲臓器との関係、転移の有無を評価します。術前の詳細な評価にも用いられます。

  • 免疫染色検査(病理組織診断)

     採取した組織に対し、「c-kit(CD117)」「DOG1」「CD34」といったマーカーの発現を調べて診断を確定します。

診断の流れは、内視鏡検査→EUS・CT検査→病理診断→治療方針の決定というステップで進みます。


4. 主な治療方法

GISTの治療は、腫瘍の大きさ・悪性度・転移の有無に応じて選択されます。良性に近いものから明らかな悪性腫瘍まで幅広いため、個別のリスク評価が重要です。

  • 外科的切除(手術)

     GISTに対する基本的な治療法です。転移がなく、局所的に存在する腫瘍であれば、腫瘍を完全に切除することが目標となります。腹腔鏡手術で対応可能なケースも多くあります。

  • 内視鏡的切除(選択的)

     腫瘍が小さく、内腔に突出しているタイプの場合には、**専門施設での内視鏡的切除(EFTRなど)**が可能なこともあります。

  • 分子標的薬治療(イマチニブなど)

     手術不能例や再発・転移例では、**c-kit遺伝子の異常に作用する分子標的薬(イマチニブ、スニチニブなど)**が使用されます。副作用のコントロールが必要ですが、長期的な腫瘍制御が期待できます。

  • 補助療法(術後治療)

     高リスクの再発を予防するために、術後に一定期間イマチニブを服用する治療が推奨される場合があります。

当院では、内視鏡診断および適切なタイミングでの専門施設紹介、術後のフォローアップ、分子標的薬治療の導入支援を行っております。


5. 予防や生活上の注意点

GISTは、生活習慣病とは異なり、明確な予防方法は現在のところ確立されていません。

しかし、以下のような点に注意することで、早期発見や再発予防につなげることが可能です。

  • 定期的な内視鏡検査を受ける

     無症状でも定期的に胃カメラを受けることで、小さな腫瘍を早期に発見できる可能性があります。

  • 胃の違和感や黒色便があれば早めに受診

     「ただの胃もたれ」と思わず、気になる症状は専門医に相談しましょう。

  • 分子標的薬を使用している場合は定期的な通院を

     薬の効果判定、副作用のチェック、血液検査などを適切に受けていただくことが大切です。

  • 禁煙・適度な飲酒、バランスのとれた食生活を心がける

     腫瘍の直接的な予防にはつながりませんが、全身の健康状態を整えることはがん治療においても重要です。


GISTはまれな腫瘍ですが、的確な診断と適切な治療により、十分に予後の改善が見込める疾患です。

泉胃腸科外科医院では、胃カメラやEUSによる早期発見、地域の専門病院との連携による治療支援、再発予防のための丁寧なフォローアップを行っております。

気になる症状がある方や、健診で異常を指摘された方は、どうぞお気軽にご相談ください。